一回お別れ (第六章 完)

 カミヤとオズワルドは、年が明けるまでオヤマー領にいた。あまりにもクリフトとレイシア、それに神父を交えた話し合いが多すぎたからだ。


 仕方がないので、新年に向けた教会の準備はクリシュが主体で行われた。


 町では各ギルドを中心に、新年を祝う祭りの準備がなされた。夏のサクランボフェスティバルが楽しすぎたのか、領内だけでも盛り上がろうと今年から自主的に始まったのだ。領内が本格的に復興したことが、形になって表れてきた。


 領にはまだまだ借金が残っている。しかしそれはあえてのこと。災害の借金があるうちは、規定通り返していれば、王国への税が一部免除される。

 免除された税金分。レイシアの特許。産業の効果的な育成。サクランボジャムを始めとした加工食品の安定した出荷、およびブランド化。それらで入ってくる税を、返済でなく投資に回すことができている。良い意味で経済が回ってきたのだ。


 年末、町の広場では楽しそうに祭りが開かれた。レイシアとクリシュは冒険者の服装で館を抜け出し、2時間ほど祭りを見て回った。立場も役割も関係なく、ただただ仲の良い姉弟として祭りを楽しんでいた。



 新年、教会の朝。


 神父様の話が終わると、クリシュの指揮で孤児たちが讃美歌を歌った。美しい歌声が教会の礼拝堂に響き渡る。礼拝堂に入りきれない人たちのため、外でも讃美歌を歌うグループを作っていた。漏れ聞こえるパイプオルガンと孤児たちの歌に合わせて外のグループも歌った。


 その光景を眺めているのは水の女神アクア他数名の神々。この後酒盛りでも始めるのだろう。


 皆が感動していると、いつものスーハータイムに突入。今日は新年初ということで、第一第二とフルバージョンで行われた。腕を振りスーハーと呼吸をする人々は一糸乱れぬ動きで神を讃える。神々もつられてスーハーを行った。


 ここに神と人とが共鳴した。奇跡とも言える光景! だが、誰一人気付くことはなかった。無駄な奇跡だったようだ。


 ◇


 1月3日。カミヤとオズワルド、そしてクリシュが王都へ向けて出発した。2月5日はクリシュの誕生日。今年は一緒にいられない。でも、2月半ばにはまた会える。今度は港町サカで。レイシアは笑顔でクリシュを見送った。一回離れるだけだ。そう思って。


 ◇


 領民たちは自主的にお祭りを開けるほど立ち直った。

 教会も孤児院もなんとかなりそう。


 レイシアは、自分のために休みを使った。魔道具についての研究を神父と一緒に行った。神父は魔道具については範囲外だったが、二人でラノベの情報を精査し考えを言い合った。カミヤからの情報ではサカに魔道具を研究している変わり者がいるという噂があるということだ。


 もう一つ。石鹸に関してもカミヤがヒントを与えていた。貴族の間では髪専用の石鹸が売られているそうだ。それは植物性石鹸。だから社交界では動物性の石鹸は時代遅れと言われているらしい。ハーブの匂いがするから分かるそうだ。


 石鹸の改良も課題の一つになった。レイシアは夏に行った植物油での実験で髪がべとべとになったのを思い出していた。


「できるの? 植物油で石鹸?」


 魔道具と植物性石鹸。その二つがレイシアの課題になった。




 もうじき2月。クリシュは王都から、レイシアはターナー領からサカへ向かう。約束は2月15日。一回お別れしたけど、またすぐに会えるね。今度は新しい場所で。


   (第六章 完)





 …………………………あとがき……………………



 ええっとですね。冬休み半分に分けました。以前のクマデ編、分けたらよかったと後悔していたので。


 っていうか、港町に旅する予定はなかったんです。また暴走が・・・


 ということで、章タイトルも変えました。そして六章は終わりです。

 次は七章、冬休み後編の港町編です。どうしたらいいのでしょうか? 


 まあ、いつか出したいと思っていた港町です。エピソードも書きながら思いつくことでしょう。


 まだまだ長いです。お付き合いください。

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