朝からたいへん!

 朝市の喧騒を抜け、2人は黒猫甘味堂へ向かった。まだ朝の8時半。10時の開店どころか準備にも早い。店長もまだ鍵を開けに来てないはず? えっ?


 店の前には、すでに30人程のお嬢様達の行列ができていた。


「あっ、黒猫様!」


 1人の女子がレイシアを見て声を上げると、


「黒猫様だ~」

「制服着てる!」

「黒猫ちゃん!」

「「「きゃ—————」」」


と、黄色い声が響き渡った。


 レイシアは常連客の間では、メイド服の色と店の名前から「黒猫ちゃん」「黒猫様」などと呼ばれていた。二つ名何個目?


「黒猫ちゃん制服着てる!」

「本当に学園生なんだ」

「お嬢様は黒猫様の方!」

「かわいい~」

「今日から復帰! やった~」

「待っていたのよ! 黒猫ちゃん!」


 口々に叫ぶので何を言っているのか分からない。


「みんな静かに~!」

 ファンクラブの会長が叫ぶと一瞬で静かになった。


「黒猫ちゃんの復帰に声を上げたくなるのはよく分かるわ。でもね、黒猫ちゃんと近隣住民に迷惑をかけてはダメ! みんなで温かく迎えましょう。『黒猫様、お帰りなさいませ』はいっ」


「「「黒猫様! おかえりなさいませ~」」」


「は、はい」


「「「きゃ—————」」」


 サチは冷めた目をしていった。


「レイシア様、今度は何をやらかしたのでしょうか?」

「なにもやってないわ」

「へぇ—————」

「ほんとうよ!」


 会長がすっとレイシアの前に来る。


「我ら一同、あなた様の帰りを待ち望んでいました。ところで、黒猫様と同じメイド服を着たそちらの方はどなたなのでしょうか? 同じ黒メイド服。なにか意味が?」


 まわり中から期待の目。異様な圧にサチも怯む。敵意であれば反撃すれば済むだけなのに……。女子の良く分からない圧にはどう対処していいのやら。メイド長にも仕込まれていない。


 レイシアは、戸惑いながら言った。そう、言ってしまった。


「こ……こちらは私の姉のような(存在の)」

「「「きゃ—————」」」


「お姉様!」

姉猫あねねこ?」

「「「姉猫様あねねこさまぁ—————!!!」」」


 叫んだお嬢様達。

 あせるレイシア。

 白目になるサチ。


「レイ、やらかしたね」

「なにもしていないわ」

「へ————————」

「ほんとうよ———!」


 会長がテンション高く叫ぶ!


「今まさに、黒猫様のお姉様! 姉猫様が降臨いたしました!」

「「「あっねねこっ! あっねねこっ! あっねねこっ! あっねねこっ!」」」


 姉猫コールが止まらない。


「どーすんの、これ」

「わたしじゃないよ」

「あんただよ!レイ」


 店長があわてて走ってきた。


「何事! あ、レイシアちゃん」

「店長!」

「なにがあったの? とにかく中に入って! 君も!」


 店長はカギを開けると、2人を店の中に入れた。


「会長さん。とにかく静かにさせて! あまりうるさいと近所から苦情が!」

「分かりました。みんな静かに!」


 いっせいに静まる。


「店長、先ほどの新しいメイドは? ご説明を」


 会長は店長に詰め寄った。新情報を逃しはしない。

 よく分かっていない店長は、お嬢様達の熱のこもった目線の圧に耐え切れず、適当なことをいって逃れた。


「あ、あれは、サプライズ。そう! 開店してからのお楽しみだよ。準備があるからこれで。おとなしく待っていてね」


 そうして店の中に入ると、しっかりと内カギをしめたのだった。





【現在のレイシアの二つ名】

 制服の悪魔のお嬢様(略称 制服の悪魔 悪魔のお嬢様)(市場)

 黒魔女様  (メイド組女子生徒)

 マジシャン (料理組男子生徒)

 やさぐれ勇者(法衣貴族組生徒)

 メイドアサシン(騎士組生徒)

 死神     (冒険者脱落組)


 黒猫様    (黒猫甘味堂のお客様) ←NEW



【現在のサチの二つ名】

 姉猫様    (黒猫甘味堂のお客様) ←NEW






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