演説

 次の日から、一斉に動き出した。レイシアが夏休みの間にお祭りを仕立て上げようと無謀な計画になってしまったから。

 狩りに行ったのが、8日の日曜日。クリシュと料理したのが10日の火曜日。そして11日の朝。

 教会で『スーハー』が終わった後、神父様が皆を待つように指示した。


「これから、領主様から重大な発表がある。皆、心して聞くように」


 領主としてお父様のクリフトが壇上に上がるのを、レイシアとクリシュが見つめる。


「領主のクリフト・ターナーだ。皆、あの災害から今まで本当に苦労をかけた。感謝している」


 領主が頭を下げた。それだけで会場全体に衝撃が走った。


「私たちは、耐えに耐えてきた。復興の名のもとに頑張ってきた。街道を整え、農地を作り直し、木を植え、一つ一つていねいに直してきた。本当に頑張ってくれた。感謝をここに表す。ありがとう」


 会場が「ウオ~」とざわめいた。もともと温泉で見かけるほどの近い関係性のある領主。しかし、ここまではっきりと平民に話しかけることは初めてだった。もっとも、教会なので法衣貴族もたくさんいたが。ここに、貴族も平民も同じ心で感動していた。


「これから、私は皆と一緒によい領を作りたいと思っている。これからは耐えるだけではだめだ。喜びと楽しみと希望の持てる領地経営を目指そうと思う。我々に必要なのは祭りだ! そうだろう」

「おお—————」


「今より、『サクランボフェスティバル』を開始する。皆、アイデアを出し合って盛り上げてくれ。最終日は今月の28日。サクランボ料理コンテストを行う。優勝者には賞金として金貨1枚を進呈する。プロ、アマ、両方のコースを用意するから、腕自慢の奥様たちも参戦してくれ。皆でターナーをサクランボ王国にしようじゃないか!」

「おお—————」


「やるぞ—————」

「おお—————」


「祭りだ—————」

「おお—————」


 地を揺らすようなコールアンドレスポンス。

 人々は、領主の言葉に酔いしれた。


 まだなにも決まっていない企画。

 だが、ここに、確かに、自分たちの未来への希望が見えた。


「「「よく分からないけど、絶対に成功させなければ!!!」」」


 人々は、まだ見ぬ『サクランボフェスティバル』という希望を広めに、家族のもとへ、職場へと、駆け出して行った。


 ここから、『ターナー領、奇跡の18日間』が始まったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る