第五章 夏休みまで
魔法最高! お風呂最高!
「カンナさ~ん!」
珍しくテンション高目でレイシアが帰ってきた。
「おや、お帰り。なにかいいことでもあったのかい?」
「はいっ! 魔法が使えるようになりました!」
「魔法だって? 騎士にでもなるつもりかい?」
「ふふふふ。見ててください!」
レイシアが風呂場にカンナを連れて行くと、お風呂に右手をかざし「ウオーター」と唱えた。
ジョバジョバジョバー
右手から水がわき出し、風呂はあっという間に水で満たされた。
「なんだいこりゃ! 便利なもんだねえ」
「ふふふっ! まだまだですよ」
レイシアが水に向かい指差し「ファイアー!」と叫ぶと、指先から炎がブワッと吹きだした。
「グールグール、グルグルグルグル」
そう言いながら指で円を描きながら勢い良い炎で水をかき混ぜると、やがて水は程よく温まった。
「これでよしっと」
風呂桶でお湯をかき回し、温度を確かめたレイシアは満足そうにうなずいた。
「なんだい? 風呂を温めるなんて聞いたこともないよ」
「うちの田舎ではこうなんですよ」
温泉の事はむやみにいわないほうがいい。そう言われていたので、レイシアは田舎の風習という事にした。
「そうなのかい? 田舎は薪が豊富なんだねえ」
「それに、まだ春で夜は寒いから温かいお湯のお風呂は最高ですよ! さあ、カンナさん、入ってみてください」
「いいのかい? こんなに早くから」
「いいからいいから」
レイシアは急かすようにカンナをお風呂にいれた。
恐るおそる、カンナはお湯に足を入れた。そして肩までつかると、ふあ~と息を吐いた。
「ん? はあ~。こりゃなんだねぇ。ずいぶん気持ちがいい。筋肉のコリがやわらぐようだよ」
「ゆっくり入ってくださいね~」
レイシアは扉の外から声をかけた。
「ああ。肌から油が取れていくようだ。水ではこうはならないね。油は熱に弱いからねえ」
「お湯の中でよく洗ってくださいね。髪も洗うといいですよ。じゃあ料理作っておきますからゆっくり入ってください」
「ありがとうね。ゆっくりさせてもらうさ」
ドボンと頭まで潜ったカンナ。髪の油が気になってくる。
「こりゃあ、思ったより汚れているね。お湯だとこんなにも気になるものだったのかい」
石鹸でゴシゴシ髪と体を洗った。
ゴシゴシゴシゴシ……。
気がつくとお湯は真っ黒に汚れていた。カンナは急いで体を拭いて服を着た。
「いかがでした?カンナさん!」
お風呂からあがったカンナにレイシアが聞くと
「ああ。最高の風呂だったよ。だけどね、お湯がどうしようもないほど汚れてしまったよ。すまないねぇ」
カンナが恐縮して答えると、レイシアは風呂場に行って答えた。
「大丈夫ですよ。ほら!」
そう言って排水を始めた。汚れたお湯がみるみる流れていく。空になった風呂釜をささっと洗うと、仕上げに手から水を出して風呂釜を洗う仕上げをした。
そしてまた、あっという間に水を張ってしまった。
「じゃあ、夕飯が終わったらお湯にして今度はイリアさんに入ってもらわなくっちゃ」
「はぁ~、すごいもんだねえ。魔法って」
「明日からも私がお風呂温めますね。水汲みも魔法で出来ますからお任せください!」
それ以降、オンボロ寮の生活が一変していった。
◇◇◇
数週間後、ついに魔法について足がかりを見つけることが出来た。
「魔法はイメージ」。はるか昔の埋もれていた書物の言葉が、レイシアに天啓を与えた。
「魔法はイメージ。同じ言葉をみたことがある。あれは……、そう、ラノベ! 『生活魔法のマエストロ~魔力の少ない魔法使い、スローライフを楽しむ~』そう、あれよ!」
王国一の蔵書を誇る図書室。もちろんラノベも揃っている。レイシアはラノベをむさぼるように読み込んだ。数多くのラノベ、数多くの古書。見比べながら、仮説を立てた。そして実験を始めた。
レイシアは2つの属性の」魔法を再現させることが出来た。
1つは光魔法「ライト」
1つは風魔法「ウインド」そして「トルネイド」
ライトはランプの代わりになった。
ウインドは、何に使える? 夏にかけたら涼しそう?
そしてトルネイド。渦を巻く風。何度か実験したら、右巻きも左巻きもできた。
ある日、お風呂を温めているとき
「もしかして、トルネイドでかき回せば楽なのでは?」
と、レイシアが火を出しながらトルネイドもかけてみた。これは、魔力量が半端なく、また必要魔法量が少なすぎるレイシアだからできたこと。
風呂の水が竜巻の勢いでクルクル回った。
「もしかしたら、ここに洗濯物を入れたら洗えるかも?」
そう気づいたレイシアは、洗濯物を風呂に突っ込み、洗剤も入れた。
右回転、グルグル。左回転、グルグル。右回転、グルグル。左回転、グルグル。
お湯の効果も相まって、洗濯物はキレイに洗えた。
「なんて便利! でも私以外できないのでは? 発表してもむだかな?」
レイシアは、次はどうやって洗濯物を絞ろうかと悩み始めた。まだまだ魔法には可能性がある! そう思ったレイシアだった。
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