第五章 旅立ち レイシア11〜13才 弟6~8歳
素敵な弟計画
温泉から上がり、お家に戻ったレイシア。お父様とクリシュ、使用人たちが、迎えに出ていた。
「ただいまー」
元気よく挨拶をすると、弟クリシュが抱きついてきた。
「お姉様、大好きです。お姉様、素敵ですニャン」
レイシアは、迎えを受けたことにとても感動していた。
(ああ、お母様もこんな感動を受けていたのね。私がやったことは間違いがなかったのだわ。うれしい。そしてかわいいわ、クリシュ。なんてかわいいの! ネコミミして付けて素敵ですニャン! え? ネコミミ付けて素敵ですニャン? どうしたのクリシュ! なにがあったの!)
横目にサチの立てた親指が見えた。満足そうな顔をしている。
(後で聞き取りね)
レイシアは、サチを呼び出すことに決めてから、クリシュのかわいさを堪能した。
◇◇◇
「何をしたの?サチさん」
「何のことでしょうか。レイシアお嬢様」
「やめよう。今はレイでいいよ、サチ。二人きりだしね」
「分かったよ、レイ。何聞きたいの?」
「クリシュに何をしたの?」
「ああ。クリシュ様が素敵な弟になりたいっていうからさ、手伝っただけだよ。大したことはしてない、っていうか、大したことしようとしてたから止めてたんだよ!」
「止めてた?」
「ああ、先生が、私達が昔作った『素敵なお姉様計画』の㊙ノートを渡すから! あれやる気だったのよ! やばくない! やばいでしょ!」
「え? 普通ですよね。なにか問題でも?」
「問題だらけだよ~! レイ、あの頃の私はどうかしていた。レイの超人ぶりに気が付かずやりすぎた」
「え? 出来たよ。ふつうに……」
「だからぁー、それ、普通じゃないから!!!! それやらせたらクリシュ様つぶれるよ。はい、『素敵な弟計画』計画表はこれね。確認してみてよ」
サチは天才の思考についていけなかった。化け物のようにしか思えないレイシアの普通って何?
レイシアはレイシアで、あれはメイド修行も料理人修行も入っていないライト版よね、と思っていた。
◇
「方向性は間違ってないわ。特に、私の弱点、人付き合いの悪さと甘え下手。私も気づいていないところを適切についてきたわね。参考になるわ」
「ありがとうございます」
ダメ出しには敬語になるサチ。
「でもここは頂けないわ。『甘えるときにはネコミミを付けて対応するべし。語尾に「ニャン」とつけるとなおよい。ニャンの練習は欠かさずするべし』って、普通じゃないよね」
普通じゃない人間から普通という言葉が出る。そのダメ出しはかなりキツイ。
「えっ? でもレイシア様、好きでしょ、そういうの」
「大好きよ! でも、それとこれとは別ね。私対応でなく、クリシュの将来を考えないとね」
「……ソウデスネ」
「じゃあ、直すわよ。『素敵な弟計画』」
「レイ、それはダメ」
「えっ? どうしたのサチ」
「クリシュ様はできる子です。何かさせようとすれば、何倍もしてしまうくらいに。レイシア様が誘導してしまうと、何も考えずやりきってしまいます。あの時のレイシア様のように」
「……」
「クリシュ様は、存在自体がすてきな弟ではないですか? 大丈夫。レイは、クリシュをかわいがればいいだけなの。あんたが歪めちゃダメ。分かった?」
レイシアは、ワーカホリックになっていた頃の自分を思い直していた。
「……そうね。分かったわ! ありがとうサチ。間違うところだったわ。ありがとう」
こうして、『素敵な弟計画』は終わりを告げた。
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