パーティー

 翌日の教会での聞き取りはとどこおりなく終わった。当の神父は何も覚えておらず、更にたまたま懺悔担当の神官が様子を見ていたと言った事でスムーズに調査が終了したのだ。


 お祖父様は、その神官と隣同士になったタイミングで静かに聞いた。


「お前は何を知っている」

「なにも。神の御心のままに。知恵を求むる者に敬意を」


 それだけで理解するには充分だった。


◇◇◇


「さあ、ドレスも靴も揃いました。アリシア、私たちの家族を紹介するわ。5日後ホームパーティに参加するわよ」


 お祖母様はうきうきとレイシアに衣装を見せながら言った。


「レイシアです、お祖母様。ホームパーティですか?」


「ええ、息子たちに会わせるわ。本宅で行うの。近くのご家庭の子女も来るから、お友達を作りなさい。貴族として家同士のつながりを持つことはとても大切よ」

「分かりました。気を付けることは何かありますか?」


「大丈夫よ、アリシアちゃんなら。デビューなのだから、にこにこと愛想よくしてればいいわ。逆らわないこと。いいわね、レイシア」

「はい。お祖母様」


(お祖母様と話していると、自分がレイシアなのかアリシアなのか分からなくなってくるような感じになる。いいえ、名前が似ているから仕方がないことなのだろう)


 レイシアはそう思うことにしていた。しかし、心の奥のもやもやは積み重なっていくばかり。お祖母様との会話は自然と事務的な感じになっていった。



 それから毎日、貴族としての挨拶の仕方や礼儀作法、お茶の飲み方、話し方の基本、ダンスなど、貴族としての立ち居振る舞いのレッスンが行われた。

 お祖母様がいつも付き添うため、お祖父様とは、なかなかまとまった話をする機会がなかった。


 レイシアは、日毎日ごとに感情が失われていくようだった…………。



 パーティーはとどこおりなく終わった。表向きは。


 次期領主である叔父は、好き勝手をして出て行った姉アリシアを憎んでいた。もともと仲の良かった姉弟だったのだが、その一件で受けた被害が大きすぎた。関係修復する前に亡くなってしまった姉。その子供に良い印象を持つことは出来なかった。

 さらに、現領主の父からは領主の器ではないと思われているのが分かっているので、自分が認めてほしい父が、手放しで褒めている姉の子に対してどうしてもいやな感情しかおきなかった。


 「ほう、君がレイシアか。君たちの借金のおかげで僕は領主を譲ってもらうことが出来たよ。君たちには感謝しないといけないな」


 大人気ない、と思いながらも皮肉しかかける言葉が出てこなかった。いやな雰囲気を払拭ふっしょくするためか、子ども同士庭の会場で遊ぶこととなった。

 しかし従弟たちは両親の話を聞いていたため、レイシアに悪い印象しかなく、貴族の子女たちも、田舎者の勉強もできないイモだろうとレイシアを下に見ては粗雑に扱っていた。


 レイシアは感情を殺して、お祖母様の言いつけ通り、にこにこと愛想よく逆らわずにいた。しかし、同年代の貴族子女のレベルの低い会話やいじめ、頭の悪さがや性格のゆがみ方を感じて気持ち悪くなった。何もできない、何も知らない子供が、高価な装飾品や自慢話でマウントを取り合う。


………………………………めんどくさいな……つまらないな……


 どんどん失われていく感情。へらへらとした笑顔でやりすごしていた。



 パーティーを終えて祖父母と家に帰ったレイシアは、部屋に戻ったとたん、倒れるように眠りについた

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