第12話(1) 空っぽにならない?
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平成とは別方向に向かって走ってきた令和が周囲を見回しながら呟く。
「……レーダーによるとこの辺のようですが……」
「令和ちゃん、あれを!」
令和の後に続いてきた縄文が指差した先には空中に浮かぶ弥生と弥生に似た恰好をした白い女の姿がある。女が口を開く。
「……来たわね」
「貴女は何者ですか⁉」
「私は『
「空?」
「くっ……」
うなだれていた弥生が顔をゆっくりと上げる。
「弥生さん!」
「こ、こいつらは『空白の時代』よ……」
「空白の時代……確かに266年から413年にかけて、中国大陸の文献には倭国、つまり日本に関する記述がない……よって日本史上でも最大の謎とされてはいますが……」
「なるほど……ということは貴女も時代なの?」
令和の説明に頷いた縄文が空と名乗った女に尋ねる。空が答える。
「……どう捉えても構わない……」
「そう言われちゃうと困っちゃうのだけど……」
「弥生さんをさらった目的はなんですか?」
令和が尋ねる。
「……私たちは曖昧な存在だ。いわゆる『特色』というものがない」
「ああ、それで全身白いのね……」
縄文が頷く。令和があらためて尋ねる。
「さっき、『全てを白に染める』とか言っていましたが、それはどういう意味です?」
「……私たちだけ白いというのもなんだか変だとは思わないか?」
「はい?」
「よって私たちは一つの答えに行き着いた……」
「うん?」
「『いっそのこと、みんな白くなれば良いじゃん♪』と……」
「な、なにを言っているのですか⁉」
令和が唖然とする。空はそれを無視して、弥生の方に向き直って呟く。
「まずは貴女、白くなっちゃいなよ……」
「い、いや、そんな『ユーも来ちゃいなよ』みたいなテンションで言われても⁉」
弥生が戸惑う。空が首を傾げる。
「白さに興味はないの?」
「生憎、美白趣味とかそういうのはないわ!」
「そう……それならば……空っぽにならない?」
「な、なんでそうなるのよ⁉ 空っぽってどういうこと⁉」
「身も心も軽くなるということよ」
「スピリチュアル的な話なら間に合っているわ!」
「あ~そういうことじゃないの」
空が首を左右に振る。
「え?」
「磨製石器や鉄器を駆使して、こう……抉るというか……」
「こ、怖いことを真顔で言っているんじゃないわよ!」
「大丈夫よ」
「何を以って大丈夫だというのよ⁉ や、やめなさい!」
弥生が空中でジタバタとするが、思うように身動きがとることが出来ない。
「こ、このままじゃ弥生さんが○○を××されて△△が□□になっちゃいます!」
「お、恐ろしいことを口走らないで! 令和ちゃん!」
令和の発言に縄文が慌てる。
「なんとかしないと!」
「これならどう!」
縄文がL字型の土器を投げ込む。令和が驚く。
「そ、それ、持ち歩いていたのですか⁉」
「……」
鋭く弧を描いて飛んだ土器だったが、空までには届かず、見えないなにかにぶつかって砕け、粉々になって地面に落下する。縄文が当然だというように頷く。
「うん、やっぱりこれじゃ駄目ね」
「それは駄目でしょう⁉ 本来は存在しなかった土器なのですから⁉」
「あ、それ言っちゃう?」
「言っちゃいますよ!」
「平成くんは気に入ってくれていたみたいだけどね。それなら……」
縄文は弓矢を取り出す。
「縄文さん! 弓矢の心得が⁉」
「採集が主だったけど……狩猟技術も一応一通りね!」
縄文が矢を放つが、これも空には届かず、なにかに弾かれて地面に落下する。
「バリアのようなものを張っているのでしょうか?」
令和が首を傾げる。空が呟く。
「何をしても無駄よ。さてと……」
「いやあ⁉ 空っぽにされちゃう⁉」
「くっ……まあ、ちょっとくらい空っぽの方がいいかしらね?」
「何を言っているのよ!」
弥生が縄文に向かって叫ぶ。
「聞こえていたのね……」
「聞こえているわよ!」
「次は私に任せてください!」
「令和ちゃん⁉」
「『召喚』!」
「⁉」
縄文が驚く。情報端末とともに、端末画面に映し出された3DCGキャラクターの女性が現れたからである。令和が声を上げる。
「現代の人々にとって心の空白を埋める存在! 『Vtuber』! お願いします! 弥生さんを助けて下さい!」
「いや~令和ちゃん、それはちょっと……」
「可能な限りですがスパチャしますから!」
「い、いや、課金をされても無理なものは無理だから……大体画面から出られないし」
「そうですよね……呼び出してすみません。お疲れ様でした」
「はい、おつー」
Vtuberは手を振って消える。令和は一呼吸置いてから口を開く。
「……駄目でした!」
「え⁉ な、なんだったの⁉」
「一時の気の迷いです」
「ちょっと! 遊んでいる場合じゃないでしょうが!」
弥生が叫ぶ。それを横目に見ながら縄文がため息交じりに呟く。
「仕方がないわね……」
「なにか手があるのですか⁉」
「はっ⁉」
縄文が力を込めると、装飾性豊かな土器が現れる。
「そ、それは⁉」
「『火焔型土器』よ!」
「燃え上がる炎をかたどったかのような形状の土器ですね? それをどうするのですか?」
「こうするのよ……『燃え上がれ』!」
「ええっ⁉」
縄文が叫ぶと、火焔型土器から大きな炎が吹き上がる。令和だけでなく空も驚く。
「!」
「い、いや、縄文さん! 弥生さんもいますからね! そのあたりも考慮して……」
「どんどん燃えなさい!」
「ちょっと待ちなさいよ! こっちまで燃えたらどうすんのよ!」
弥生が悲鳴に近い声を上げる。令和が叫ぶ。
「駄目です! バリアは破れません!」
「……多少は驚いたけど、そんなことでこの結界は破れないわ……」
空は笑みを浮かべる。令和は声を上げる。
「縄文さん! 他に手はありませんか⁉」
「う~ん……ならばこれよ!」
縄文が手をかざすと、みみずくに似た顔をした土偶が現れる。
「こ、これは『みみずく型土偶』!」
「『巨大化』!」
縄文が声を上げると、土偶が大きくなり、空たちが浮かんでいる高さに届く。令和が驚く。
「大きくなった! ……って動かないですけど、どうしたのですか⁉」
「いや、大きくしてみただけ。別に攻撃する武器とかじゃないし……」
「そ、そんな⁉」
縄文の言葉に令和が困惑する。空が笑う。
「……お遊びは終わりのようね。さて、気を取り直して……」
「空っぽはいやあー!」
「くっ! 縄文さん、なにかないですか⁉」
「これならどうかしら⁉」
縄文が縄を取り出す。令和が戸惑う。
「な、縄⁉」
「やっぱり私と言ったらこれでしょう! えい!」
縄文が縄を思い切り叩きつけると、結界が意外と簡単に破れる。令和が驚愕する。
「シ、シンプルイズベスト⁉」
体の自由が戻った弥生が着地を決める。空が驚いた顔で呟く。
「結界を破るとは……こうなったら、やってしまえ!」
空が多数の青色の人影を呼び起こす。その人影が令和たちに迫る。
「む! ⁉」
「可愛い後輩に近づかないで頂戴……」
「それ! えい!」
二つの赤色の影が青色の影たちをはねのける。
「奈良さん! 天平さん!」
令和が驚きと喜びの入り混じった声を上げる。
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