第11話(3) 源平の討魔伝

「来てくれたんか!」


 古墳が声を上げる。


「先輩方の窮地に駆け付けなければ武士の名折れ!」


「ここは任せて頂こう!」


「おおっ! 頼もしいな!」


 源と平の言葉に旧石器も笑顔を見せる。飛鳥が呟く。


「大分消耗したからね……」


「ええ、飛鳥さま、我々は少し休ませて頂きましょう」


 白鳳が頷く。白が笑みを浮かべる。


「ふん……白い影をより強くした、『白魔』に勝てるつもりか?」


「やはり魔物の類か……」


「人の形を留めていないな、獣かなにかのようだ……」


 数体の白魔の前に源と平が並び立つ。平成が叫ぶ。


「おおっ! これこそまさに『源平討魔伝げんぺいとうまでん』だ!」


「ちょ、ちょっと待て平成!」


 源が平成の方に振り返る。


「え?」


「それは確か平氏の者が主人公の電脳遊戯だろう⁉」


「電脳遊戯……ああ、ゲームね、そうだね、一応『源平~』とは謳っているけれども……」


「それでは我が脇役みたいではないか!」


「みたいではなく脇役そのものなのだ……」


「なにを⁉」


 平の呟きに源が気色ばむ。


「ここは我のみで十分……主役の邪魔はしないでもらおうか」


「言ってくれるではないか!」


「なんか言い争い始めちゃった……まあ、いつものことか……」


「ふん……」


 平が前に進み出て、懐から笛を取り出す。平成が首を傾げる。


「なにそれ? クラスメイトの女子のたて笛?」


「そ、そんなものを持っているわけがないだろう! いいから黙って見ていろ! ~♪」


 平が若干取り乱しながらも笛を吹く。その美しい音色を聞いた白魔の数体が眠りにつくように倒れる。飛鳥が感嘆とする。


「ほう、見事な音色だね……」


「お褒めに預かり光栄です。『平敦盛たいらのあつもり』殿直伝の笛です」


 平が飛鳥に対して頭を下げる。源が笑う。


「ふん、生温いことを……」


「貴様のように血の気が多い輩と一緒にするな……」


「や、輩だと!」


「言い争いはそこまで! まだ白魔は残っているよ!」


 平成が争いを止める。白が再び笑う。


「ふっ、今のは小手調べだ……次はこうはいかんぞ……それ!」


「!」


 白が手を掲げると、白魔の数体がやや大きくなり、頭部に角のようなものが生える。


「こ、これは……⁉」


「獣では不十分なようだが、『鬼』ならばどうかな?」


「お、鬼⁉」


 平成が慌てる。


「落ち着け、平成……」


「で、でも、源くん! 鬼って!」


「むしろ得意分野だ!」


「ええ?」


「はあっ!」


「⁉」


 源が素早く刀を抜いて白い鬼に斬り掛かり、数体の鬼をあっという間に斬る。斬られた鬼は霧消する。白の表情がやや変わる。


「む……」


「白い鬼は初めて見たが、この『鬼切丸おにきりまる』の前では無力だな……」


 源は刀をかざしたまま得意気に呟く。平成が興奮する。


「お、鬼切丸⁉ なにそのど直球なネーミングの刀⁉」


「『源頼光みなもとのよりみつ』とその屈強な配下たち、『頼光四天王』は幾度となく鬼退治を行った……この鬼切丸も退治の際に用いた刀の一振りだ……」


「幾度となく鬼退治⁉ 『鬼殺隊きさつたい』じゃん! ってことは、それは正に『鬼滅きめつやいば』⁉」


「うわっ⁉ 平成、危ないぞ! 刃先に近寄るな!」


「お、おっと、これは失礼……興奮のあまりつい取り乱した……でも大丈夫、自制出来る、俺は長男だから」


「平成、長男やったんか……って、長男とか関係あるか?」


 古墳が戸惑い気味に呟く。


「くっ……ならばこれならどうだ⁉」


 白が再び手を掲げる。大きくなった白魔数体が分裂し、数体の小型の影になる。


「む⁉」


「包囲された⁉」


「やはり数で押すに限る! やってしまえ!」


「ふん、負けるか!」


「同じくらいの大きさなら尚更遅れは取らん!」


「待った!」


 平成が叫ぶ。


「どうした、平成⁉」


「何だ⁉」


「この白い影は通常の攻撃ではなかなか倒せないんだ!」


「なんだと⁉」


「それは厄介だな……」


「ということでここは俺に任せてくれ!」


「なにがということでなのかよく分からんが……」


 平成の言葉に平が戸惑う。源が促す。


「その意気やよし! やってみろ、平成!」


「おおっ! いくぞ! 『深の呼吸』!」


「えっ⁉」


「すぅ~~はぁ~~!」


「い、いやなんだそれは⁉」


「呼吸を整えてまずはリラックスだ! 落ち着きが大事!」


「そんなことを言っている場合か⁉」


「これだ!」


 平成は棒状のものを取り出す。源が驚く。


「それがお前の刀か⁉」


「ああ、『蛍光灯』だ!」


「けいこう刀か! 強そうだな!」


「い、いや、それは確か、照明道具の一種ではないのか⁉」


 源は素直に感心するが、対照的に平が困惑する。


「まあ見ていてくれ! 『青色LED』!」


「‼」


 青い光を受け、周囲を包囲していた数体の影は霧消する。


「あ、青色の光とは、摩訶不思議な……」


 白鳳が呟く。


「お、おのれ! ならばこれだ!」


 白が両手を掲げると、残っていた白魔数体が合体し、一体の巨大な鬼型白魔となる。


「うおっ⁉ さっきよりも大きい鬼だ!」


「怖気づくな! こんなもの! ……どわっ⁉」


 源が斬り掛かるが、逆に吹き飛ばされる。平が鼻で笑う。


「情けなし! 我がいく! とおっ! ……ぬおっ⁉」


 平も吹き飛ばされる。源が声を上げる。


「なんだ、その体たらくは! 口ほどにもない!」


「なにを……!」


 平成が慌てて声をかける。


「あ~お二方! 争っている場合じゃないよ! ここは両者力を合わせて……」


「「断る‼」」


「ノータイム即答⁉ ならば仕方がない……両者、一定の距離に離れて立って!」


「「?」」


「早く!」


 平成の言葉に従い、源と平は距離を取る。両者の前に平成が立つ。平成が声をかける。


「源くんは俺と正対に動いて! 平くんは反対に動いて! じゃあいくよ!」


「あ、ああ!」


「わ、分かった!」


「融~合~はっ!」


 平成の動きに合わせて動いた源と平の両手の人差し指がピタリと合わさると、両者が眩い光に包まれ、一つの姿となった。旧石器が驚く。


「な、なに⁉ 姿が合わさった⁉」


「よし! 『源平』くん爆誕だ! あの巨大な鬼にも引けをとらないぞ!」


「「ふん! 『源為朝みなもとのためとも』譲りの強弓を喰らえ‼」」


「⁉」


「「とどめは『平教経たいらののりつね』ばりの怪力だ!」」


「⁉」


 源平の圧倒的な攻撃を喰らい、巨大な白魔は霧消する。平成が快哉を叫ぶ。


「やった!」


「「……さて、どうやって戻るのだ?」」


「え? それは分かんないけど……」


「「む、無責任過ぎるぞ、貴様‼」」


 首を捻る平成に対し、源平が困惑しながら叫ぶ。

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