第24話 審問官3
審問官を斃してからは運よく誰にも出くわすこともなくダンジョンのあの部屋に帰り着き、ケルビンが壁のレンガを抜き出してくぐり抜けたらレンガを戻して、を繰り返し、二人は亀裂を通って下水道まで帰り着いた。
「このまま、ローズの店に向かう」
「うん」
二人は下水道の側道を小走りに進んでいき、ローズの店にたどり着く途中何度か大ネズミに出くわしたが、そのたびに大ネズミは逃げていった。
ローズの店の地下室から梯子を上ったところでローズが迎えてくれた。
「ケルビンとビージー、いらっしゃい。
あそこにいってきたんだね」
「ああ。これだ」
そう言って、ケルビンがマントの中からケーブスラッグの粘液のはいった瓶を二つローズに渡した。
「いつものように、まずは金貨百枚」
ローズは瓶ごと重さを図り、ケルビンに大きめの袋を一つ渡した。
「それと金貨二十枚」
ローズは追加で小袋に金貨を入れてケルビンに渡した。
渡された袋をケルビンはマントに仕舞った。
「ケルビン、中身を数えなくていいのかい?」
「あんただって、瓶の中身を確かめなかったろ。俺たちは持ちつ持たれつ。無意味なことはお互い必要ないからな」
「フフフ。そのとおりだね。次回用の陶器の瓶を2つ、そして陶器のヘラを先に渡しておくよ」
ケルビンはローズが手渡したスラグシルバー用の瓶とヘラをマントの中にしまった。
「次は何を仕入れてきて欲しい?」
「次は、黄茸だね」
「分かった。二、三日中に採ってくる」
ローズの店から出た二人は前回同様、下水道の側道を通って部屋に戻った。
影の御子の装束から普段着に着替えたビージーは早々にベッドに横になり寝息を立て始めた。
ケルビンもこの日はある程度疲れたようでビージーが寝入ってすぐにベッドの横に床の上に毛布を敷いて横になった。
翌朝。
昨日の帰りが遅かった関係で、ビージーの目が覚めたのはいつもよりだいぶ遅かった。
「ケルビン、起こしてくれればよかったのに。でも、遅くまで寝かせてくれてありがとう」と、朝食の支度を終えたケルビンに、ビージーがベッドから話しかけた。
「今度から起こしてやるよ。さっさと顔を洗ってこい。食事が終わったら今日は買い出しだ」
「はーい」
ビージーが朝の支度を終えてテーブルについたところで、食事が始まった。
「ビージー、昨日審問官を三人斃しただろ」
「うん」
「連中は、欠けた三人を補充するため新しい審問官を作ることになる」
「うん」
「運が良ければ、薬を飲んでも一人も死なずに三人の審問官が出来上がる。
運が悪ければ、何人も死んでやっと三人の審問官が出来上がる」
「うん」
「でも罪人が審問官になるんだったら、どうして逃げださずに審問官を続けてるの?」
「薬を飲んで一度審問官になってしまうと、その薬を定期的に飲まないと苦しんで死ぬんだ。
だから連中は皇帝には逆らえない」
「皇帝って頭がいいんだね」
「千年も生きているらしいからな」
「それでだ。罪人の数が足らなくなると、連中は帝都に繰り出して、適当な罪状で人を集めると教えただろ」
「うん」
「おそらく、今日、連中は人狩りをする」
「そういうところに出くわしたら、わたしたちどうするの?」
「見ているしかない。
昨日、なんとか三人斃せたが、今度は昼間だし、街を見回るとき連中が三人とは限らないうえ簡単に仲間を呼ぶことができるからな」
「分かった。わたしたちは、できるだけ関わらないようにする。そういうことだね?」
「そういうことだ。連中が近くで理不尽に街の連中を捕まえても見て見ぬふりで知らん顔だ」
「うん。そうする」
「今日は普段着だがコートの下に影の御子のベルトをしておけ。用心のためだ」
「影の御子のベルトってことはナイフを持ち歩くってことだよね。見て見ぬふりをするのに?」
「俺たちが連中のターゲットに成った場合は戦わざるを得ないからな」
「薬はどうするの?」
「薬はそういった状況になってからでいいだろう。
今のうちに渡しておくからベルトの物入れに入れていろ」
ケルビンはビージーに速さと身軽さのフラバと正確さと注意力のブラバの丸薬を1粒ずつ渡した。
「いくか」
「うん」
アパートの戸締りをして、二人は通りに出て行った。
今日も通りに人夫が出て濡れた灰を掃除していた。
「毎日毎日大変だよね」
「それでもああやって働けばわずかばかりの金が手に入る」
「そうだね」
「仮にも帝都だ。灰で埋まっちゃ格好がつかんからな」
「ふーん。人狩りするような国でもそんなこと気にしてるんだ」
「そうだな。働き口がなければそこらで野垂れ死にするわけだが、死体が病気の元になるかもしれないからある程度の金は使わざるを得ないんだろう。
皇帝はケーブスラッグの粘液を五公家それぞれに卸して莫大な収益を得ているしな」
「皇帝はそうやって集めたお金をどうしてるの?」
「こういった都市の維持や街道、特に運河の維持に使ってはいるが、それだけじゃ使い切れないほどの収益があるはずだ。
ただ金を集めているわけではないと思うが、俺にもその辺りは見当がつかない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます