第46話 ローゼット家6、命運
ケルビンたちによる二度目の荷馬車襲撃の翌朝。
ローゼット家当主ヴィクトリア・ローゼットの執務室。
いつも通り隣の居室で朝食を摂り、朝の執務に取り掛かったヴィクトリアに筆頭家令キエーザが昨夜の荷馬車襲撃事件の報告を行なっていた。
「昨夜の襲撃についてご報告に参りました」
「それで?」
「レディ。昨日賊と戦った黒衣団の二名の話では、馬車に襲撃を仕掛けてきた賊は二名。一人はかなり小柄だったようです。
その二人は二人とも何かの毛皮から作ったと思われる黒い装束を着ていたとか。
おそらく二人は黒の丸薬ニグラ以外の丸薬に適性を持つと言われる影の御子と推察します。
影を味方とする御子、影に潜まれると容易なことでは見つけられません」
「前回馬車を襲撃したのもその二人なのか?」
「確証はありませんが、否定はできません」
「なぜ当家の馬車を襲う?」
「前回馬車を焼いたところを見ると物取りのためではないようですから、何らかの恨みがあると考えてよいと思います。
しかし、実際のところは分かりません。捕らえることができれば分かるのでしょうが今回取り逃がした以上、その機会は訪れないかもしれません」
「逃してしまったものは今さらどうしようもない。
しかし、二人の影の御子と互角に戦うことができたということは、われらの作り出した黒衣団もなかなかのものではあるな」
「それは結構なことですが、今回、黒衣団が戦うところを審問官に見られてしまいましたが大丈夫でしょうか?」
「大丈夫であろうとなかろうと、今さらどうすることもできないであろう」
「ごもっともです」
「影の御子も今回の襲撃の失敗に懲りてすぐには荷馬車を襲うことはないだろうから、黒衣団はしばらく王都から遠ざけておくか? また検針でも始められてはたまらんからな」
「理由は分からぬまでも影の御子が当家を狙っていることが判明した以上、この屋敷の警備のためある程度の黒衣団を残しておきませんか?」
「それもそうだな。そのように計らってくれればよい」
「かしこまりました」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
スラグシルバーの入ったゴブレットを受け取るため暗黒の塔内の居室から謁見の間に下り、玉座に座していたザリオンの前に皇帝付き筆頭女官ヘレナが進み出た。
「陛下、お薬をお持ちしました。
ご報告が一件あります」
「何だ?」
「昨夜巡回中の審問官がローゼット家の屋敷近くでの私闘を目撃したそうです」
「それで?」
「一方は、黒い毛皮を着たナイフ使いの男、その男に対して二人の黒装束の男が短剣でやり合っていたとのこと。
審問官のリーダーによると、黒装束の男二人は審問官並みの動きをしていたとのこと」
「審問官並みの手練れをナイフだけでしのぐということは、ナイフ使いの男はおそらく影の御子だな。以前捕らえられなかったが、帝都に潜んでいたわけか」
「御意。
審問官たちが近づくと黒装束の男たちはローゼット家の屋敷に向かって逃げていき、影の御子はマンホールの中に消えたそうです」
「影の御子はいずれ殺さねばなるまい。
それとローゼットで審問官並みの私兵を持っているということは、任せていたニグラを何らかの方法で加工して、審問官に相当する私兵を作ったのだろう。
こちらも放っておくわけにはいかぬ」
「いかがしましょう?」
「影の御子は見つけなければどうにもなるまい。
ナメクジのエサは足りていることでもあるし先日検針をしたばかりだから検針は見送ろう。
居場所がはっきりしているローゼット家の方を先に片付ける。
ハンコックを取り潰して間もないが、ローゼットも取り潰すしかあるまい。今夜仕掛ける。
ヘレナ。残りの三公家に、ローゼットが謀反をたくらんでいた故粛清すると伝えておけ。ローゼットの荘園は五分割してそのうちの二を残し三を三公家に分け取りにするよう伝えよ」
「かしこまりました」
「ローゼットに代わって丸薬を作らせるべき貴族を二家探しておけ。ローゼットの荘園の内残ったものをその二家に分け与えよ。その二家に各々ベルダとニグラを任せる。
その二家に対するスラグシルバーの卸値は当分他家の半額でよい。
ベルダの供給が数カ月止まるとなるとある程度産業は混乱するだろうが、城内のニグラにはそうとう余裕があったはずだ。それほど急ぐ必要はない」
「御意」
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