第24話 決意(11/7 '22 改
「――ミコトさんとセントウダさん。これでよかったのかしら……」
二人を対面させたのは、果たして正しかったのか?――ミコトと別れ、自分の部屋に戻ったカナは、その事ばかり考えていた。
「もう、どうしようもないわよね……」
会わせてしまった以上、なかったことにはできない。カナは気持ちを切り替えることにした。
「次に、私がしないといけないことは……」
カナはスマホを取り出した。
***
「――ありがとうございます。『お茶をしたい』 という私の誘いを受けていただいて」
「こちらこそ、ありがとうございます。私もカナさんとお茶ができて嬉しいです」
エリは微笑んだ。
エリの微笑みを見て、カナは心に痛みを覚える。
(私がこれからしようとすることは、取り返しがつかないことかもしれない。でも……)
カナは以前、ウラトとやり取りをしたことを思い出していた。『無名経典』のことである。
(無名経典の目的は、世界を滅ぼすこと。そんなもの、あってはいけないの。でも、どうやったら無くせるの?それに、もし、無くしたとしたら……)
カナはエリを見た。エリはマキに命じてお茶の用意をさせている。
ふと、カナと目が合う。エリはにっこりとする。
カナも微笑みを返したが、上手く笑えていないような気がした。
(無名経典を無くす方法は、まだわからない……けれど、私が人間じゃなくなって、今ここにいるのも、もしかしたらこの為かもしれない)
「カナさん、大丈夫ですか?」
エリは声をかける。カナがぼんやりしているのが気になったからだ。
「ごめんなさいっ。大丈夫ですっ」
いらない心配をさせてしまった。カナは余計に申し訳なさを感じる。
「お話したいことがあったら、遠慮せず申してくださいね。私は聴くだけしかできませんが」
エリはカナに優しい眼差しを向ける。眼差しはカナにとって鋭く感じた。
「……エリさん」
カナはエリに呼びかける。
「カナさん?」
エリはカナの顔を覗き込む。カナは、今にも泣き出しそうだった。
「エリさん!私、無名経典を無くそうと思うんです」
カナは思い切った。心臓がバクバクと強く脈打っているのを感じる。
「エリ様。お待たせしました……お二人とも、なにかあったんすか?」
マキは用意した茶器類を卓に並べている。その間、カナとエリは固まったかのように、黙りこくっていた。
「あ、ありがとうございます。マキさん」
マキに呼びかけられ、エリは正気になる。
「ごめんなさい……私……」
カナはしょんぼりする。今にも泣き出してしまいそうだった。
「今日は、その話をしに来たのですね?」
エリはカナに微笑みかける。
「はい……」
カナの返事を聞いても、エリは笑みを絶やさない。カナとしては、それが余計に心痛めた。
「私はいいんです。でも、カナさんは、それでよろしいのでしょうか?」
エリはにこやかな顔から一転、真顔になる。
「よろしい、って何がですか?」
カナは聞き返した。
「そもそも、私がいけないのです。私が早くいなくなればよかった。そうすれば、姉様はヴァンパイアにならなかったのに……
「そういえば、カナさんもヴァンパイアになったのでしたね。しかも、お父様まで亡くされて。更に、酷な決断をさせる……本当に、ごめんなさい」
そう言いながら、エリは項垂れる。
「エリさん、謝らないでください。エリさんは悪くないです」
カナは慌てて慰めようとした。
「私のことはいいんです。私がここにいるのは、ひょっとしてこの為なのかもしれない。最近、そう思うようになったんです……どうやって無くすのか、その方法は未だにわからないんですけど……」
威勢よく話し出すが、後半はしりすぼみになる。
「カナさん……」
カナは元来気弱なのだろう。けれど、今のカナの目は決意に満ち溢れている。カナは、やると言ったら、やり遂げるだろう。エリはそれを感じとった。
エリはカナの手を取る。
「ありがとうございます。私は充分生きました。姉様も、終わりを望んでいるでしょう」
カナはエリの目を見る。その目は、ただただ優しかった。
「こちらこそ、ありがとうございます。お話を聞いていただいて」
カナはエリの目を見ながら、返事をする。
「では、お茶にいたしましょうか」
エリの顔に笑みが戻った。エリは茶器を手に取り、茶葉を入れる。
「はい。ではご馳走になります」
カナはエリの入れた紅茶を味わった。
「――今日は、本当にありがとうございました。では失礼いたします」
カナは一礼したあと、部屋を出た。
「マキさん。私に何かあっても、カナさんを恨まないでくださいね」
カナが部屋を出た後、エリはマキに向かってこう言い出す。
「は、はぁ」
エリがなんでこんなことを言い出したのか。マキには検討がつかなかった。
***
「無名経典を無くすとはいったけど、どうやって無くせばいいのかしら……」
カナは部屋に戻ってからというもの、ずっとこんなことを考えている。
『無名経典を使えばいいんじゃない?』
リリーが提案をした。
「どういうこと?」
カナは聞き返す。
『無名経典というかエヌって、在ることそれ自体が嫌なんでしょ。だったら、無名経典に向かって『無名経典が無くなれ』って言えばいいんじゃないの』
「えぇっ」
無名経典は『在ることそれ自体』を疎んでいる。けれど、自らの存在の消滅を望んでいる訳ではないだろう。
「その方法、通用すると思えないけど……」
カナはリリーの言に異を唱える。
『でもさー。無名経典って何が起こるかわかんないでしょ? ジェイだって勝手に来たようなもんだし。もしか、いけるかもしれないじゃん。てゆーか、この方法しかなくね?』
「……そうね」
言われてみれば、そうかもしれない。カナはリリーの案がいいかもしれないと考えた。
「その方法を使うとなると、無名経典――エヌを呼び出さないといけないんだけど……」
エヌを呼び出すということは、エリをエヌにするということだ。その方法しかないということはわかっているのだが、どうしても抵抗感が拭えない。
『それだったら、アタシに任せなさい。だって実質あいつもパラサイトでしょう』
リリーは深い眠りについたジェイを起こしたことがある。パラサイト云々はそこから来ているのだろう。
「パラサイトって……」
エヌはパラサイト。言われてみれば、その通りだ。ただ、リリーは一緒にされるのは嫌ではないのか? カナはそう思った。
「でも、それしかないわよね……そのときは、よろしくお願いします」
とりあえず目処はついた。成功するかどうかはともかく。カナはそう考えることにした。
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