Case16「マリンの誕生」

——ワタシはウェールズという地域にあるそこそこ大きな町、その中にあるブリテンウィッカ家の長女として二十二年前に生を受けた。歴代数々の熾天使いを輩出した魔法使いの名家である。家族構成は元熾天使いの父、座天使いの母に当時魔法学校主席だった兄がいた。あっ、さっきから言ってる熾天使いとかなんだっていうのは天使の階級に当てはめた魔法協会が定めるランクのことで、その中のトップが熾天使い。座天使は上から三番目に位置するわ。


「——その語り口調で進める気か……?」

「これが一番わかりやすいでしょう。気になるとこがあれば貴方アナタが途中から突っ込めばいいのよ。どぅーゆーあんだすたん?」

「はいはい、イエスだ。わからないことがあったら随時口を挟むことにするよ」

「そうしてくれた方がわかりやすくて助かるわ。——さて、続きね」


 ——血の影響かワタシには魔法の才能があったのでその町にあった魔法学校に四歳にして入学。周りは年上ばかりの中、見事主席合格。通常十二年のカリキュラムを僅か五年で修め卒業。その間も……まあ色々あったけれどそこを話すと本格的に時を浪費するからちょっと割愛。堅実に実力をつけたワタシは続けて父の元でも鍛錬を続けていた。


 その時だった。いつも通り鍛錬していたある時、突如火属性の魔法を扱っていると出力過剰になり抑えられなくなったのだ。有体に言えば『暴走』。あまりにも魔法使いとして優秀すぎたワタシは暴走の結果、鍛錬に付き合っていた父は全身火傷で瀕死。一緒にいた兄も左目が焼け落ちる重症。これがトラウマになって一番得意の火属性をあまり使わなくなり、次に得意だった水属性魔法を極めることにした。


「——待て。元とはいえ熾天使い、しかも火属性に特化した魔法使いを相手に十そこらの少女が全身大火傷を負わせたっていうのか?」

「ええ、そうよ。今でも後遺症のせいで長時間一人じゃまともに動くことができないくらいやべいわ。お父様は笑っているけれど罪悪感パナいったら無いっての……」

「待て待て! いやそれはそうだが……。君の才能は恐ろしいほどだな。もしかしなくともさっきのも全力では無かったわけか……」

「んー、あの時出せる九十パーセントではあったかしら。現状全盛期の八割くらいしか力引き出せないから困ったものよね、ホント……」

「——アレで八割……。いやいい。これ以上この話はやめよう。続きを頼む」

「えっと——じゃあ続き」


 ——十一の頃。魔法使いの秩序兼仕事紹介所たる『魔法協会』の総本山へと加入。そこで実力を認められ一年で上位位階である座天使いとなった。そこからは更に四年、協会で教官をやっていたこともあったが、そこも話すとまた長いので割愛。その教官時代に更に実力を認められた末に熾天使ガブリエルと契約。七枠しか存在しない熾天使いとして降臨した。


「——自分で降臨とか言うのか」

「こういう用語だから仕方ないのよ! 茶化すんじゃないっての」


 ——そこからは教官をやめてひたすらに力を十全に扱えるよう鍛えるだけの日々だった。……半年しかしてないけれど。


「半年だけで完全に習得してしまったのか!?」

「完全になんてとんでもない。厄災戦時でさえ五割安定して使えるようになった程度よ。大体熾天使の力を完璧に扱えるのは熾天使だけ。それこそ人捨てなきゃならないし、ワタシはそこまでする気はないわ」

「そういうものなのか……」

「そういうものよ。そして半年鍛錬した後、ワタシは運命と出会う——」

「——運命」

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