第12話 Kの風刃/悲しみの向こうへ
俺はその者に対して感情を失い、殺しをすることは前から少しだけあった。それでも、最初から殺意があったわけじゃない。
だからこそ初めてだ。目の前の何かに、こんなにも『殺したい』衝動が襲ってきたのは。
「ふんっ!」
「っ……!?」
怪人は、俺の心臓を貫くために、鉾で突いてくる。俺は、わずかに反応が遅れ、俺は避けることが精一杯だった。
「【死ね】!」
俺は、先の二人を殺した方法を使うも、効果を示さない。
「それはプロメスの―――マラークの力だ、私には通用しない」
「プロメス?マラーク?なんだそりゃ……」
「つまり、貴様は私には勝てないという事だ。人でなくなりし者よ、大人しく殺されるがいい」
「なに言って……がはっ」
俺は、見えない力で吹っ飛ばされて、後ろの建物に叩きつけられる。しかも、継続的に圧力をかけ続けられて苦悶する。
こいつ、俺を圧死させるつもりだ。
俺は、そこで気付く。
人がいない。
不自然な程に人がいない。まさか、最初から俺たちを殺すつもりでいたのか?
「ぐ……か……こ……【壊れろ】……」
「む……」
まずい、短絡的に行って殺せるような相手じゃない!
クソ!このまま、逃げるのか?いや……まてよ?
奴は人でなくなったものを殺すと言っていた。その対象は、俺と委員長。共通点は年齢、学校。
そして、能力者であること。
なら、能力を持たない一般人は殺さないんじゃないか?
俺はそう考えると、人の気配のする方に走り出す。
駅前なら、相当の人がいるだろう。
しかし、相手は人外。相当なスピードで追いかけてくる。
「クソッ!速過ぎるだろ!つーかなんだあれ!キモすぎるだろ!」
怪人は、ビルや高い建物を伝って、こちらを追いかけてくる。その姿は、見た目も相まって本当にサルみたいだった。
「【加速】【加速】【加速】【加速】【加速】!お願いだ!逃げ切らせてくれ!」
俺は、加速を何段にも重ねて、スピードをF1カー並にあげる。周囲の建物がどうなろうと知ったことか。
俺は、人の間を縫って進んでいき、敵の目をごまかしていく。すると、俺の予想が当たったのか、怪人はめっきり攻撃してくることがなくなった。
だが、あんなのが表に出てくれば人はパニックになるのであって―――
「きゃあああああ!」
「化け物だああああ!」
俺は、あらかじめ怪人を捕捉して、分身を出現させつつ攻撃の機会をうかがっていた。
奴が俺の姿を見失って、人がある程度離れたその一瞬が唯一の攻撃のタイミング。直接の攻撃が利かないのなら、間接的な攻撃をするだけだ。
「【分身】からの【一斉放射】」
「ぬおおお!」
俺の分身から放った弾は、奴の足場を撃ち続け、陥没させる。さらに、巻き上げた砂を一点に固めて、岩となして落とす。
流石の怪人とはいえ、今のはひとたまりもないはずだ。
「ぐぬぬ……」
予想通り、俺の能力が効かないで、物理的な攻撃は効くみたいだ。
「【加速】」
「むっ……」
俺は加速して怪人の後ろに回り込む。奴は、体力が著しく減っているのが原因か、奴の反応が数舜遅れる。
そして、俺の手に握られているのは、鉄パイプ。そこらへんに落ちてたやつだ。
ありったけの加速を乗せて、ぶっ殺す!
「くたばれえええええ!」
グチャ!
怪人の頭部は、超加速パイプの力によって吹き飛んで、怪人は絶命する。
怪人を殺した俺は、すぐさま先ほどの場所に移動する。あんな怪人にかまけていては、俺の能力が露呈する可能性が高くなる。
誰かが来る前に消えるのが一番だ。
それから俺は、委員長の死体を回収して委員長宅に来ていた。
さて、両親にはどう説明すればいいんだ?娘さんが死にましたなんて、どう言ったらいいんだ。
俺は悩みながらも家の中に入る。どうこう言ったって、委員長は帰ってこない。彼女の両親たちには、真実を伝えるほかない。
ガチャ
俺がドアを開けると、明かりがついたリビングが広がっていた。
「ただいま……」
俺は、そう言ってみるも返事がない。彼女が死んだことを知っているのだろうか?
そう思ったが、それは間違いだった。
委員長の両親は……
リビングのドアから見えない死角の位置で―――
絶命していた。
「お父さん!?お母さん!?」
俺は慌てて駆け寄るも、なんの意味もない。もはや、蘇生不可能な状態。完全に体も死んで、死後硬直が始まっていた。
しかも、流血がない。二人の体を解析してみると、死因は【圧死】だった。だが、おかしい。二人の遺体は、どこにも傷がない。なのに、内臓が大きな岩とかに押しつぶされた時の衝撃によってぐちゃぐちゃになっているという解析結果が出ている。
なにが起きているんだ?意味がわからない。
ただ、俺のことを一晩だけでも泊めてくれた人たちをこんなにする奴が許せなかった。必ず見つけ出して殺してやる!
だが、その前に三人を一緒にしてやらないとな。二人の死に顔も、とても苦しそうだ。せめて、安らかな顔で眠っていて欲しい。
俺は三人の遺体を別室のベッドに運び、川の字に並べる。そこから、三人が抱き合うような形に姿勢を変えて、最後に顔の筋肉などをいじって、幸せそうな顔を演出する。
死体をいじること、現場を荒らすこと。その他諸々は犯罪だ。本来はするべきではない。だが、俺のことを優しく迎えてくれた人たちをあんな冷たい空間に放っておけない。
「一日だけでしたけどお世話になりました。必ず仇を取ります。だから、静かに安らかに眠ってください」
ベットに横たわる三人に向けて、俺はそう手を合わせる。
これからの俺の愚行をお許しください。
委員長の死体が、一般人の手に渡り、普通の人とは違う力があることがバレたら、非常にまずい。
文明の発達のみに使うのならまだいいのだが、この世界は力で私腹を肥やす人間などごまんといる。そんな奴らに、この家族を利用させてはならない。
そんなことになるくらいなら、俺は俺の手で、この家族をこの世から消す。
「さようなら、お父さん、お母さん。そして委員長―――いや、汐」
俺は能力を使って、桃里家の家を2000度の炎で燃やす。隣の家などに被害が出ないように、結界的なものを張っておこう。
そして、俺がやったことがバレないように―――
「【消去】」
半径600メートル以内の俺の痕跡を排除した。
流石に、一連のことは全て俺の罪になってしまうので、汐たちには申し訳ないが、遺体すら残すことがはばかられる。
俺は、出来る限りこの業を背負って生きていく。これが、依頼を守れなかった探偵への罰だ。
俺は、燃える桃里家を背に、歩きだした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
事件から数週間
犯人未発見などの問題から、少しの間学校が休校になっていたが、つい最近、休校が解け生徒たちが投稿を始めた。
しかし、投稿する生徒の中に桃里汐の姿はない。
うちのクラスの委員長の机には、黄色の水仙が供花として置かれていた。
彼女の正義は、多くの人の反感を買い、花を手向ける人などいなかったが、唯一クラスの中で彼女に花を手向けるものがいた。
最近、クラスのマドンナを泣かせ、己の親友すらも裏切った男が張本人だった。名前は有藤大雅。俺のことだ。
現在、有藤大雅は、先の恩もあってか梓家に居候させてもらっている。そこでは、色々な人がいてよくしてくれている。今のところ、家出による不便は感じていない。
先日の怪人に殺された汐。この死には何か意味があるはずだ。決して依頼人の死を意味のないものにしてはいけない。いつか俺がくたばって、あの世で彼女たちに会う事があったら、ともに失った青春を送りたいと思う。
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