第41話 本気の宣言

「アタシやります」

「!」


 誰より早く。

 ……気付けばゲルド一家以外全員が集まっていた。


 マモリさんが、立候補した。


「マモリ?」

「はい。やらせてください。アタシも、ヴァイトさんの役に立ちたいから」


 ヴァイトの専属技師。旅をしながら、魔剣のメンテナンス。これからのヴァイトに、必要な人材。


「……既に役に立ってるぞ。メシとか」

「違いますヴァイトさん。料理それは、『プラスアルファ』なんです」

「ん?」


 マモリさんの料理は美味しい。それは皆が認めてる。


「アタシがやっていることは、『美味しく食べられたら良いな』です。……アタシが居なくても、ヴァイトさんは旅を続けることができます」

「…………まあ、元々ひとりで旅してたからな。マモリのメシほど美味くねえが、基本的に獣狩って焼いて食ってた」

「でしょ? 絶対必要じゃないんです。けど、この専属技師は、無いとまた魔剣が壊れて、敵に負けてしまいます。これは絶対必要なんです」

「…………まあ、そうだな」


 決意の目だった。ヴァイトに対して。本気で。


「アタシは、ヴァイトさんの『基本的』になりたい。だからアタシ、やります。やらせてください」

「…………この、ツガのオッサンの話を聞く限り、技師は必要だ」

「はい」

「だが……。マモリお前は、俺を利用するつもりだったよな。今は、俺を頼るしかないが。いつか、俺の元を去る。その時、俺は『基本的マモリ』を失って死ぬことになる」

「…………」


 そうだ。マモリさん本人から始まったんだ。ヴァイトとの結婚と、復讐を終えた後のこと。ユクちゃんもタキちゃんも殆ど皆、『ただ生き残るために』ヴァイトとの結婚を戦略的に望んでた。恋愛感情関係なく。

 そこについて、勿論ヴァイトも分かってる。だからヴァイトとしては、技師には『旅をしている間ヴァイトとずっと一緒に居る』仲間に任せたい筈だ。その宣言をしているのは、トミちゃんと。

 私は……保留だけど。


「その通りです。よく分かってますね」

「言ってたろ」

「けど、分かってない。良いですかヴァイトさん」

「お?」


 マモリさんは、ふう、と息を整えた。


「アタシはヴァイトさんが死ぬまでヴァイトさんを利用するつもりです。アタシからは離れません。一生、技師として付いていきます。そのつもりです。料理も魔剣も、出来れば夜も。あらゆるサポートをするつもりです」


 宣言した。改めて。

 殆ど、求婚だ。


「…………」


 受けて、ヴァイトは。


「……俺より強い男が居たらそっち行くんだろ?」

「弱気ですか? 魔人ヴァイトともあろうものが」

「俺は別に自分が最強だとは思ってねえよ」

「アタシの、ヴァイトさんが強いと思っている部分は、肉体でも魔剣でもなくて。その性格や精神性なんです。割り切ってて、ブレない。躊躇わない。真っ直ぐ。素直で真面目で、責任感も強い。そして、自分に自信を持ってる。……素敵な男性だとアタシが思ったんです。だから、付いていきます。させてください。専属技師」


 食い下がるマモリさん。私にはもう結末が分かっていた。

 ここまで言われて。素直でバカなヴァイトは。


「…………分かった。頼む」


 断れる訳無い。


「はいっ!」


 それまで真剣にヴァイトを睨んでいたマモリさんが、ぱっと明るくなって嬉しそうに笑った。






■■■






「……何を見せられてたんだ俺達ァ」

「そこはもう仕方無いですよツガさん。彼ら一行は女性が多いので」

「その言い方も偏見あるだろォが」


 ふん、と荒い息が鳴った。


「時間は無駄にできねえ。マモリっつったか。荷物纏めとけ。1時間後にここを出る。シン、ヴァイトの身体データあるか?」

「はい」

「おし。ならちゃっちゃとやろうかい。ヴァイト。これから打つ魔剣、なんか注文あるか?」


 ヴァイトの専属技師はマモリさんに決まった。誰も口を挟まない。あれだけ演説されたら。

 というか、子供達には危ない仕事だし。私は…………。


 ヴァイトの役に、立ててるのかな……。


「特にねえよ。とにかく強くしてくれ」

「デカさとか取り回しとか重さとか、グリップの素材とかねえのか」

「ねえな。全部無視で良い。威力だけ頼む。それだけありゃ良い」

「…………物凄え扱いにくくなるぞ」

「構わねえよ。剣なんざ振ってる内に慣れるだろ。これから色んな魔剣使いを相手にすることになるんだろ? なら誰にも負けねえ強さが欲しい。威力の一点突破だ。後は何も要らねえ」

「……分かった。まあバラバラになる前のデータも一応聞き取らせて貰う。こっちでお前の望み通りにやりやすいように調整しといてやる」

「頼む」

「ま、俺の好きなオーダーではある。『破壊力全振り』だな」

「ああ」






■■■






「おし。じゃあ出るぞ。マモリ!」

「ちょっと待って!」

「あん?」


 最後に。

 この子が居る。


「あたしにも、魔剣作ってください」

「は?」


 トミちゃんだ。


「ヴァイトお兄ちゃんともシンとも話し合って決めました。あたしが、『もうひとりの魔人』になるって」

「…………死ぬぞ嬢ちゃん。いくつだ」

「11」

「……14歳以下の不適合反応での死亡率は7割を超える。シンおめえ、知らねえ訳じゃねえだろ」

「本人達は本気ですよ」

「…………ヴァイトおめえ、それでもやらせんのか」

「俺に決定権はねえよ。それがトミのやりたいことなんだろ」

「やりたい。あたしも、役に」

「…………」


 7割が死ぬ。それを聞いても、全く姿勢は変わらなかった。マモリさんと同じで、トミちゃんも本気だった。


「……分かった。素材は無えから【マカイロド】少し使うぞ。適合しなかったら諦めろよ」

「ありがとう!」

「…………どいつもこいつも、バカばっかりだ」

「違いねえ」


 ヴァイトはいつものように笑っていた。

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