第5話 ファーストキス
「さあ、審査結果の発表です!!」
各ペアの総合点がモニターに表示され、並べられてゆく。
「優勝は‥‥‥‥
裕貴&鈴音ペアです!!」
その瞬間、鈴音は腰から崩れ落ちた。
安心感から体の力が抜けてしまったのだ。
「スズちゃん、大丈夫?」
そう言うと裕貴は鈴音の背中と膝の裏に腕を当て、ヒョイと鈴音を抱き上げた。
「キャッ!」
そのまま裕貴の胸の高さまで抱き抱えられた。
ステージの上、しかも180センチある裕貴の身長から見下ろす景色は見た事のない世界だった。
「スズちゃん、軽いな」
裕貴が鈴音の耳元で囁く。
耳まで真っ赤になった鈴音は、子供の頃裕貴に助けられた時の気持ちを思い出していた。
あの時もこの角度から裕貴くんの顔をずーっと見てたんだ。
筋の通った高い鼻、くっきりした二重にフサフサしたまつ毛、少し上がっている口角。
あの時よりグンと大人になった裕貴の顔を見つめながら、鈴音の胸にはその時の想いがじわりじわりと湧き上がって来た。
この行動に会場はどよめいた。
「おお!まるで映画を見ているようです!
ここでお姫様抱っこが見られるとは思いませんでした!
これはもう映画のようなキスを見せて頂くしかありませんよね!」
司会者が興奮して観客を煽るように腕を振った。
観客も興奮してキスコールをした。
キーッス!キーッス!キーッス!‥
裕貴は慌ててやめさせようとしたが、
会場のコールは止まない。
くーちびる!くーちびる!くーちびる!‥
「あー!もー!スズちゃんごめん!」
鈴音の顔を覆うように顔を近づけると、
鈴音の唇に自分の唇を合わせた。
その瞬間、目をまん丸くした鈴音の目から、この6年間の秘めた想いが堰を切ったように溢れ出した。
「スズちゃん?!え?あ!」
裕貴は鈴音の様子に慌てて唇を離した。
鈴音は裕貴にしがみつき、赤児のように泣いた。
裕貴は鈴音の耳元で囁いた。
「もしかして、ファーストキスだった?!」
鈴音はクシャクシャになった顔を見られないように裕貴の首に押し当てながらコクンコクンと頷いた。
裕貴は真っ青になって鈴音に謝った。
「ごめん!ほんとにごめん!」
司会者は、
「何という初々しいしさでしょう!
彼女が感激で泣いてしまいました!
この愛らしいカップルに拍手を!」
裕貴はバツの悪そうな顔をして観客に手を振った。
会場の割れんばかりの拍手でこのコンテストは終了した。
舞台を降りた二人に他の出演カップルが駆け寄り、女の子達が泣きながら鈴音を抱きしめた。
裕貴は賞品を受け取ると鈴音の手を取り、会場を後にした。
「ほんとごめん!」
裕貴は頭を下げた。
「ごめんね裕貴くん。ごめんね。」
鈴音も泣きながら謝った。
鈴音はトイレに入って顔を洗い気持ちを整えた。
もう一度ちゃんと彼に告白しよう。
そしてお姉ちゃんに彼への気持ちを話そう。
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