エマージェンシー・ゴルドロス ②
「
金髪の少女は交番の前で仁王立ちのまま名乗りを上げる。
「訳あって
《なんか喋り方が相当にエキサイトしてる子ですねー》
脳内で話しかけてくるハク、失礼だが確かにあまり流暢な日本語ではない。
恐らく外国人……いや、名前からしてハーフだろうか?
「んでおっさんは何でこの子に怯えてるんだ?」
「聞かないでぇん、色々あったのよ……」
「ン、色々あったカナ」
椅子の裏に隠しきれないでかい図体を隠しながらおびえた様子のおっさん、さっきからこの調子だ。
このコルトという子と何かあったのだろうが、一体何があったらこんなことになるんだ……
「……ブルームスターなぁ、なんでそんな奴を探してるんだ?」
「訳あってと今も言ったはずカナ、じょーほーりょーならいっぱい沢山あげるヨ?」
コルトと名乗った少女はおもむろに手に持ったぬいぐるみの腹に手を突っ込むとぎょっとするような厚みの札束を一束取り出す。
しかも全部ドル札だ、日本円にしたら一体どれだけの価値があるのかも分からない。
「ば、バカ!! こんな街中でんなもん出すな!!」
「ン、交番ならむしろ安全だと思うケド?」
交番だって何かが起きないわけじゃない、ただでさえゴスロリ少女が札束持ってる姿なんてかなり目立つ。
道行く人々もこちらをチラチラ見ては歩き去って行ってはいるが、その中で魔が差す人間もいないとも限らない。
「悪いけど俺もそこまでブルームスターについて知ってる訳じゃない、昨日と今日の事件とネットで見たくらいだ!」
「……なんだァ、そだったノ」
価値のある情報が聞き出せないと分かると少女は札束を再度ぬいぐるみに押し込む。
……札束を出し入れする前後でぬいぐるみに変化が無い様に見えるが、あの質量はどこに消えたのだろう。
「邪魔したヨ、オトコジマ。 これ薬、早く治るするとイイナ」
「あ、ありがとぉ……」
札束の代わりに少女はぬいぐるみから明らかに容積を超えた救急箱を取り出した。
おっさんも差し出された救急箱をおそるおそるといった様子で受け取り、少女が立ち去……待て待て待て。
「ちょっと待て、まさか他でも同じように聞いて回るつもりか?」
「ン、そだよ?」
いけない、さっきの金といい事件の匂いしかしない。
振り返っても男島のおっさんは救急箱を抱えて目を逸らすばかりだ、おい警官。
「……あの、もし良かったらだけど手伝おうか?」
「おにーさんガ? 一緒に歩くとそれこそ捕まるしそうだケド」
《はははド正論でsあああぁぁあ待ってマスター今のは違うんです決して笑ったわけでは頭が痛み゛っ!!!》
今度頭の中で余計な事喋ったらその口縫い付けるぞ。
「……ま、助太刀はよく歓迎するヨ。 Thanks! それじゃお金は……」
「いらんいらん、危なっかしくて見てられないんだよ! 良いよなおっさん?」
「え、ええ……まあひー君なら……何かあったら私を呼んでねん?」
頼りない恰好で言われても困る、本当にこの二人の間に何があったんだろうか。
答えを求めて少女の方へ視線を向けても黙って満面の笑みが帰って来るだけだ。
「Time is money! 早く行こうだヨおにーさん、ゴーゴー!」
――――――――…………
――――……
――…
「……で、これは何やってんだ?」
「ンー……ちょっと静粛に、今集中してるんダヨ……」
少女に手を引かれて連れてこられたのは昨日クモと激闘を繰り広げた歩道橋周辺。
この辺りも完璧な修繕が施されており、クモの爪痕は欠片も残っていない。
しかしやはりどこか角ばっているというかブロックを積み上げたような感じだ、修復過程が気になる。
少女はというと歩道橋の上をぬいぐるみを構えながらうろうろと何かを探すような動きを繰り返していた。
「うーん、ドクターの魔力が強いナー。 根気が必要な作業になるヨ」
「……魔力?」
今この少女は確かに魔力と言った、昨日俺たちが残した魔力を辿ろうとしているのか。
魔力なんて常人が近くできるようなものじゃない、だとすればこの子は……
「……君は、魔法少女なのか?」
「君なんて他人行儀ダナー、“コルト”でいいヨ。 うん、そう、私は公式の魔法少女ダネ」
まさかの大当たりだ、しかしアオから他の魔法少女について何度か話を聞いた事はある。
それでも金髪碧眼の魔法少女なんて話は聞いた事が無い。
そもそも魔法少女の正体は秘匿されるものだ、アオだって正体がばれないように政府がサポートしている。
聞いておいてなんだが、まさかこんな明け透けに話されるなんて思わなかった。
「私は特に隠すしてないからネ。 おにーさん良い人そうだし」
「出会って数分でそこまで信頼されるのも困るわ……ブルームスターを探してるのは相手が野良だからか?」
「んー、他にも色々。 例えば魔物とブルームスター、現れるタイミングが重なる過ぎるとは思わナイ?」
「そりゃまあ……出来過ぎだとは思うけども」
クモもニワトリも偶然だ、俺たちが何かしたわけじゃない。
自分でも違和感を感じなかったわけじゃないが、それ以上の理由なんて……
「あの2件の魔物、ブルームスターが呼び出したなんて噂もあるヨ」
「はぁ!?」
思わず声を荒げてしまい、慌てて両手で口を塞ぐ。
「どしたノ、おにーさん?」
「いや……魔法少女が魔物を呼び出すなんて、そんな事あり得るのか?」
「さーね、でも不可能だと言うないカナ。 「魔法」なんてなんでもアリなトンデモだよ?」
確かに、糸の塊を弾丸のように飛ばしたり自分に引火しない炎を吐いたり、短い経験ながらどれも常識外れなものだった。
魔物を操るような能力を持った魔法少女がいたとしても不思議じゃない。
「でも、ホントかどーかは関係ないダヨ。 そういう噂があるってだけが問題、火のない所で煙がボーボーするネ」
「そりゃ……そうだけど……」
「このまま放置プレイはたがいのためじゃないヨ、政府公認になるとミョーな噂も払拭出来るけどネ」
根も葉もない噂だ、しかしそれを否定できる手段がない。
……そうか、あの時ラピリスが言っていたのはこういう事か。 野良でいる限り身に覚えもない後ろ指をさされ続けると。
「……ん、見つけた。 行くヨおにーさん」
ぴたりと動きを止め、コルトが見つめる方向は確かに昨日俺が逃げた方角だ。
「スゴいな……まるで警察犬だ」
「ヘッヘーン! もっと褒めてくれてもいんだヨ?」
当人としては凄く複雑な心境なんだけどな。
彼女の嗅覚(?)は本物だ、このままいけば喫茶アミーゴまで辿られかねない。
《不味いですよマスター、このままですと私達の正体まで暴かれるやもしれません》
分かってる、どうにかして誤魔化さないと。
「けどさ、ブルームスターを見つけてどうするんだ? 今までの感じからして素直に同行してくれるとは思えないけども」
「そーユー時はー、夕暮れの河原でグーで語り合うヨ! ジャパニーズ説得術!」
良い笑顔で振り返ったコルトはグッと握った拳で虚空を殴る。
うーん世界を狙える拳だ、絶対に戦いたくない。
「あー、もうちょっと穏便に行かないのか? 女の子なんだしさ」
「……女の子ぉ?」
コルトは一瞬キョトンとした顔を見せ、こちらの苦しい説得を鼻で笑い飛ばす。
「バカだネ、おにーさん。 私達は魔法少女、
「……なんだって?」
聞き間違いかと思えるような言葉を、コルトはケラケラ笑って何気なく言い放った。
「魔物も、魔法少女も同じだヨ。 「魔力」を使って動く災害、違いはないヨ」
「……違うだろ、魔法少女だって人間だ」
ふつふつと体の内から熱い何かが込み上げてくる。
どうしてそんなヘラヘラと笑っていられる、何で平然とそんな事を言えるんだ。
年端も行かない少女に何があったら自分を化け物だなんて自嘲できるんだ。
「やっぱ優しいネおにーさん、損する性格だヨ。 他人を助けて馬鹿を見ル」
「話を誤魔化すなよコルト、お前……」
「オトコジマがさ、なんで私に怯えてたか分かル?」
突きつけられた疑問に一瞬喉まで出かかっていた言葉が詰まる。
「私の戦ってるところ見た事あるんだヨ、あの人。 化け物の戦い方を」
あのおっさんが? バカな、そんなことでビビるようなタマじゃない。
しかし、笑ってない笑顔を張り付けたまま淡々と語る彼女の姿はとても嘘を騙っているとは思えない。
「……口先だけならなんとでも言えるヨ、おにーさん。 また後でもう一回同じ台詞を吐いてみてネ」
そしてコルトは、こちらの
彼女との間に開いた数歩の距離が、酷く遠いものに感じた。
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