第51話 死闘の末

 ◇◇◇◇◇


 レキは焦っていた……。


 Sランクハンターの戦闘力を甘くみていたことを後悔していた。

 もしかするとハデルという男がSランクハンターでも上位の強さであったのかもしれないが、今となってはどうしようもないことだった。


 その間もハデルとマリスの戦闘は続いていたが、マリスのダメージは蓄積していく。


 かと言って、一人でこの場を離れることもできない。


 仕方なく、レキは手持ちの召喚石を片っ端から叩き割っていった。

 この状況ではもう、残しておいても意味のない召喚石は次々と割られ、魔物が召喚されていく。


「上位出ろよ!くそ!」


 もうすでに30個以上は召喚するものの召喚される魔物はDランクからBランクであり、それらの魔物はハデルに向かうも明らかに戦力不足のため、ことごとく瞬殺されていく。

 そもそも、Bランク以下の魔物では、ハデルのスピードに追いついていない。


 それでも、レキはひたすらに貯めに貯めていた召喚石を次から次へと割っていく。


「レキ!危ないから下がっていなさい!」


「そうだな。チョロチョロと変なもん出しやがって!楽しい戦闘が台無しだぜ。

 黙って見てろ!もうすぐお前ともやってやるからよ!」


 それでもレキは無言で召喚石を割り続け、ついにAランクの魔物の召喚に成功した。

 巨大な魔物である魔界の番犬ブラックケルベロスであった。

 もちろん、魔物の制御は効いていないが、ハデルが攻撃したことによってヘイトがハデルに向く形となり、ハデルとブラックケルベロスが対峙することに。


「ほう。ついにAランクのお出ましかい。やっぱデカいし硬いねえ。」


 ハデルはそれでも嬉しそうに呟いた。


 ブラックケルベロスはハデルに向けて3つの首からブレス攻撃を放ちながら、同時に戦闘を仕掛けている。

 ハデルの戦闘スタイルが拳闘であるため、魔物との相性が悪いのか、互角の展開となっている。


「レキ!今のうちに逃げるわよ。捕まって!」


 マリスはハデルとの戦闘から離れて、レキの体を掴んで、その場から離れるため満身創痍の体で飛び立った。


「レキ!このまま、北に向かうわよ。」


「ああ、すまない。」


 レキとマリスにとっては賭けであった。


 このまま、ブラックケルベロスが勝てば、助かった形となるが、ハデルが勝てば、再びひたすら追われることになる。


 時間稼ぎになるかはわからないが、レキはとにかく飛んでる間も召喚石を割りまくり、魔物を次々と召喚して、投下し続けた。


 とにかく、マリスはハデルとの距離を稼ぐために飛び続けた。



 一方、ハデル対ブラックケルベロスの対決は思いの外、時間がかかっていた。


 一時はハデルの攻撃によってブラックケルベロスにダメージを与えて優位に進めていたが、途中、ブラックケルベロスが凶暴化したことにより、ハデルにもダメージを与える形となり、またもや互角の戦いが継続している。


 ブラックケルベロスはAランクの中でも上位の戦闘力を持つ魔物で、普通にSランクハンターを凌ぐ。

 これがハデルでなければ、一方的にやられていたかもしれない。


「これは痺れるな。堪らん。Aランクでも上位だな。

 でも、あんまり悠長にしてるとあいつらが逃げちまうなぁ。

 まあ、あとで追いつきゃいっしょか。」



 ◇◇◇◇◇



 一方、聖なる樹海。


 リオたち御一行はゆっくりと順調に中央に向かって歩を進めていた。


「リオ。なんや、暇なんやけど。

 あと、どれくらいかかりそうなん?」


「まだまだかかるよ。」


「そうなんやね。

 順調なんはええんやけど、ずっとこの調子は逆に疲れるな。」


「リオ。もしかしたら、サンクチュアリを使うことで魔物を遠ざけてるんじゃないかしら?

 一旦、試しにやめて進んでみる?」


「うーん。確かにあるかも。

 じゃあ、一旦やめて進んでみるよ。

 みんなもいい?」


「ええで。」

「うん、いいよ。」

「いいですわ。」


「じゃあ、はぐれないように気をつけてね。

 って指輪があるから大丈夫かな。」


 リオたち御一行は、サンクチュアリ発動停止のまま、世界樹のある聖なる森中央目指して、再び歩き始めた。



 ◇◇◇◇◇



 ひたすら飛び続けて北に向かっていたレキとマリスだが、急遽地上に降り立った。


「おー。マリスか。久しぶり。」


「ん?ヤヌリス?」


「ああ。召喚されて来たぞ。何やらピンチらしいな。」


 やったぞ!これは2人目の魔人召喚だな!

 この女にも角と翼がある。

 ここに来て、これがデカい。


「お前は魔人か?」


「そうだな。ヤヌリス・マドマクスだ。

 マリスと同じく魔界の貴族だな。

 お前が主か?」


「そうなるな。レキ・グランベルだ。」


「レキ。ヤヌリスは私と同じ魔界の貴族だけど、位は私よりも上よ。」


「へえ。ということはマリスよりも強いってことか?」


「そうよ。私が子爵でヤヌリスは伯爵。

 魔界の爵位は純粋に強さだからね。」


 なるほど、見た目は幼い少女のようだが、強さは別ってことか。


「レキ!あんた、私のこと子供みたいって思ったんじゃないの?

 見た目で判断すると碌なことないよ。」


「そうだな。マリスよりも強いってのは心強いよ。」


「そう。わかればいい。

 で、どういう状況なのだ?

 マリスはボロボロだけど。」


 レキはヤヌリスに今の状況を簡単に説明した。


「ふーん。なるほどね。

 まあ、私が来たから安心しなさいよ。

 元々、マリスは戦闘向きじゃないからな。」


「そうなのか?十分強いと思うけどな。」


「まあ、人間界ならそうかもなぁ。

 でも、魔界ではそうでもない。」


「マリス。すごい言われようだぞ。」


「あら、その通りよ。

 否定することはないわね。

 見た目と違って、ヤヌリスの方が年齢も相当上だからね。」


「そうなのか……。」


「そうだぞ。人間よりは数百倍生きてるからな。数えるのもめんどくさくて、年齢なんかは覚えてないけどな。」


「わかった。マリスより強い魔人はありがたい。助かったよ。」


「で、レキよ!これからどうするつもりだ?」


「そうだな。強力な助っ人が来てくれたのはありがたいが、これ以上リスクは取りたくない。

 このまま、北へ向かう。」


「ん?消極的だな。そのハデルというやつを殺ればいいんだろ?」


「どのみち、50%の確率でそうなる。

 その時はよろしく頼む。」


「そうか。ならそうするか。

 よし。なら私がレキを運んでやろう。

 マリスは後ろからついてくるといい。」


「そうね。ヤヌリス、お願いするわ。」


 レキは幸運にも2人目の魔人召喚により、強力な助っ人を得た。

 まだ、油断はできないが、さっきまでの最悪の状況ではなくなったことで、心にゆとりができた。


「じゃあ、行くぞ。ヤヌリス、頼む。」


 レキは見た目が幼女の魔人ヤヌリスに掴まり、さらに北を目指して飛び立って行った。


 ◇◇◇◇◇

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