第20話 シャビル王子の想い

 ◇◇◇◇◇


 シャビル王子は、リオたちのテントの一室に入ってベッドで眠りにつこうとしていた。


 が、隣の部屋が気になっていた。


 リンドウ。


 こんなことは今までなかったのだが。


 私に近寄ってくる女性といえば、打算の固まりか、もしくは媚びを売るか、とにかく、裏には悪意が感じられることしか経験していなかった。そのため、この年になるまで女性に興味を持つことなんてなかったのに……。


 固有スキルの直感の弊害によって、女性不信になっていたシャビルにとって、王子とわかった上で、まったく裏のないリンドウはなんとも心地の良い存在になっていた。


 さらにあの成熟した美しい容姿で17歳と聞いた時には、さらに驚いた。そして、戦闘する姿も美しく、何より無双の強さである。


 周りでは、私は男色であると噂されていることは知っているが、そちら側ではないのだ。

 今まで、そういう人に出会わなかっただけなのだ。


 それにしても、このベッドはなんなのだ!

 この世のものとは思えないふかふかだな。

 心が溶けそうだ。



 ◇◇◇◇◇



 2日目からは森の中も通過していく道になり、ところどころで魔物が発生して襲われるも、オークやワーウルフなどのDランクの魔物なので、今はリオでも対応できている。

 Eランクの魔物などは逆に襲ってこない。


 リオは率先して魔物討伐しているのをリンドウが見ているという感じだ。


 オークと違い、ワーウルフは鋭い爪を使い、対人戦の様な戦いになるのだが、リンドウとの鬼特訓の成果もあって、戦闘において凄まじい進歩を遂げていた。

 ワーウルフであれば、魔法なしの剣術勝負でも無敵状態である。


「リオ。だいぶ良くなったわね。」


「うん。リンドウとの特訓のときはわからなかったけど、ワーウルフと戦って実感が湧いてきたよ。」


「でも、まだまだよ。油断しちゃダメよ。」


「うん、そうだね。もっと経験を積まなきゃね。分かったよ。」


「うん。よろしい。」


 その風景を静かにじっと眺めているシャビルであった。



 ◇◇◇◇◇



 それから1週間ほど経ち、魔物に襲われることはあったが、被害もなくここまで順調に進んできている。



「今日は穏やかな日だね。」


「そうね。」


 リオとリンドウはのんびりとゼータの上でくつろいでいた。

 ゼータの察知能力は人間のそれよりも優れているので、ゼータが騒がない限り平和である。


「リオとリンドウの関係って不思議だよね。

 リオが主なんだよね?」


「そうよ。」


 あれは2日目の夜のこと。

 シャビル王子とテントのリビングでくつろいでいるときに王子もゼータに乗って行きたいというお願いをされた。

 断る理由もないので、ゼータに聞いてみたところ問題ない様子だったので、3日目からはリオとリンドウに加えてシャビル王子もゼータに乗って王都までの旅を続けている。

 もちろん、リンドウの交渉によって、またもや追加料金になっているのだ。


「どういう関係か教えてくれないよね?」


「そうね。私はリオのためにいるってことよ。」


「うーん。それがよくわからないんだけどね。」


 王子の直感でも、リンドウは嘘をついている様には思えない。リオとリンドウはものすごく強い絆で結ばれていることは容易にわかった。


 なので、余計に訳がわからなかった。

 恋人同士ではないことはわかるが、姉弟でも家族でもない。リオは平民ということだし、ただ、元貴族とも言っていた。しかも、元貴族の時からの付き合いではないとも言っていた。


 その辺りは聞いてもあまり言いたくないことの様だから、それ以上は聞くことはなかったが、リンドウのことを知りたいシャビルはモヤモヤした感情を持っていた。


 わかったのは、リンドウがサムライという聞きなれない種類の固有スキルを持っていることだけ。謎だらけだ。それがさらにシャビルの興味を強くすることになるのだった……。



 ◇◇◇◇◇



 それからさらに1週間。

 もうすぐ着くであろう距離になっている。

 最後の森を抜けると王都までは平地のみというところで違和感が発生。

 ゼータが騒がしく吠えている。

 しかも、いつもの騒ぎ方と違う。


「シャビル王子。何かいるわよ。

 いつもの魔物ではないかもしれないわね。

 これは森に入らず様子を見た方がいいわ。」


「わかった!近衛兵団止まってくれ!」


「はい!みんな!止まれ!」


 ゼルダンが全体に指示を出した。


 近衛兵団全体が一旦停止して、様子を見ている。リンドウにも微かに違和感が感じられた。


「やはり、何かいるわね。

 これは魔物じゃないんじゃないかしら?

 例えば、暗殺集団とかね。」



 長い間様子を見ていると痺れを切らした大集団が、王子たちの前に現れた。



「しゃーないな。バレてるみたいだな。

 これは相当鼻の効く奴がついてるんだな。」


 目の前の集団はやはりマスクの様なもので顔を隠している。ざっと20人はいるであろうその集団に一人だけ紅色のマスクの男が話しかけてきている。


 ゼータの上でシャビル王子がリンドウに話しかけていた。

 ヘルサイズには、組織内の階級があり、幹部の下に紅蓮頭ぐれんとう蒼穹頭そうきゅうとう翠帳頭すいちょうとう、黒兵(訓練兵含む)に分かれており、それぞれ、紅、蒼、翠、黒のマスクを被っている。

 あの紅色のマスクは紅蓮頭の証であり、幹部候補の一人で相当な強さだという。



 こちらの先頭には近衛兵団長のゼルダンがヘルサイズの集団に対峙している。


「お前たち、ヘルサイズの者だな!

 我々に何の用だ!」


「お前、すごく弱そうだな。

 まあ、紅蓮頭の俺が来たからには、お前たちは生きて帰れんし、教えてやるとするか。

 

 目的は2つだな。


 まずは、そこにいる第二王子の始末だな。

 悲惨だよなぁ。邪魔なんだってよ。

 まあ、これも依頼だからな。諦めろ。

 

 あともう一つ、俺の目的があってな。

 そこの王子の横にいる女だよ。

 冥土の土産にこれを見てみろよ。」

 

 紅蓮頭の男は、一枚の紙切れをその辺の石に丸めて、リンドウに投げて来た。


 それを受け取ったリンドウは、その紙切れを見て紅蓮頭の男の目的を理解した。


「どうだ。Eランクハンターでその額とはラッキーだったぜ。俺も早く幹部になりてえからな。美味しい話は放っておけないんだなぁ。

 もう、そろそろマスクも取りたいしな。

 だから、紅蓮頭である俺がわざわざ来てやったってわけよ。残念だったな。」


 リンドウはその紙切れを懐にしまい、リオに声をかけた。


「リオ。ちょっと行ってくるから、あなたはシャビル王子のそばについてるのよ。いいわね。」


 リンドウは、リオに声をかけるとゼータから飛び降りてゼルダンの前までゆっくりと歩いていった。そして、紅蓮頭の男に声をかけた。


「来てあげたわよ。

 やるならさっさとやりましょ。紅蓮頭さん。」


「ほお。肝が据わってんな。

 殺すには惜しいがしゃーねーよな。

 俺のために死んでくれや。」


 ◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る