第57話

 そう。僕は隆二がきてくれた時に気づいたんだ。

 最初は僕の姿を誰にも見られたくなかったけど、僕は誰か信頼できる人が傍に居てくれるほうが安心してお芝居ができるんだなって。


 僕が電話を終えて台本を手にしていると、ふいに隆二が言う。


「芝居の稽古、付き合ってやろうか?」

「えっ……」

「1人でやっても上手くは行かないだろう。僕が相手になるから」

「本当? 凄く助かるよ、ごめんなさい、大事なオフなのに」

「明日は付き添えないからなぁ。せめて家でね……」

「ありがとう!」

「それから一週間のオフは別の日にしたんだ」

「えっ? どうして?」

「……うん、君の芝居全部見たくなってさ、劇場公開前の一週間と公開中の4日付き合いたいんだ。付き人なら全日舞台袖で見れるし、僕のファンが君を邪魔する事もないだろ?」

「隆二……」


 僕はなんだか目頭が熱くなってしまった。


「この脚本さ、いいと思うんだよね。けどさ、お前に余計な雑念与えたくないから、僕がいればたぶんだけど、今日練習に集中できたんじゃないか?」


 確かに……僕今日はいじめられてない。だから芝居に集中できた。


「ファンの子に聞いたんだ、この芝居の練習始まってから相当君に風当たりがきつかったんだって? 正直に見てたことを話してくれた子がいてね」

「……」

「来風の事だ、きっと相当にネチネチ君の事やったんじゃないのか? 演出家の有家さんは意地悪からではなくて、本当に誠実に教えてくれる人だから彼の叱咤は素直に聞いていいと思うよ」

「隆二、劇団海洋に詳しいの?」


 昴さんがいた劇団だから?

 僕は少しだけ胸の奥がちくりとした。


「うーん。そんな詳しくはないけど、今日見てて、一番誠実さを感じたのはあの有家さんだったかな」

「……」

「負けるなよ、守」


 隆二は真剣な眼差しで僕を見た。


「なぁに、恥ずかしかろうがなんだろうが、たかが台詞だ。俺と芝居やった時に比べたらこんなのなんともないだろ? 気持ち込めてうんと嫌な奴になって惨めになって、お前の持ってる感情のすべてを叩き出せばいい、何不自由ない来風よりもお前の方がよっぽど色々な人生経験送ってるだろうからな。伊達じゃないだろ?」


 そう言うと笑った。


 隆二……。


 僕は嬉しくて思わず涙が出そうになった。

 さっきふと劇団海洋の隆二の元彼の昴さんが頭を過ぎったのを申し訳ないと思ってしまった。

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