第37話
明日、隆二が帰ってくる。確か出かけるときに夜には帰る、晩御飯は食べると言っていた。
本の通りの材料を買ってきてはみたけど、冷凍庫にはまだ他の材料が残っていて、僕はいつもの煮物を作ってみたが、そんな自分にまた苛立ちを覚えてしまった。
それを食べれるだけ口に押し込むと、余った分を器に入れすぐに冷蔵庫にしまいこんだ。
必死にフランス料理のレシピを見ながら、以前結婚のお祝いで貰ったフライパンやら鍋を取り出し、子羊の肉のオレンジ風味に材料を料理してワインをキチンと用意し、彼の帰りを待った。
隆二のファンクラブのアングラサイトのアクセス方法を蓮さんから教わったので、彼が帰るまでにそれを虚ろな目で眺めていた。
繰り返し目に入る僕への罵倒の文を見て、僕は本当に駄目な人間だと思った。
僕はいつも隆二に頼り続けていた自分にすっかり自信がなくなり、心が折れそうになっていた。
文字は攻撃的で辛く、でも自分の力不足や駄目さ加減が痛烈にわかるものだった。
見てはいけないと思いながら、その時の僕は取り憑かれたようにノートパソコンの画面から目が離せず、自分に対しての奢りや自惚れや自分の汚い部分に気づかされ、僕はもう芝居をする資格などないとすら思うようになっていた。
急に吐き気がして軽い眩暈に襲われた。
自分の存在が汚い物に感じられ、とるに足らないくだらない生き物だと感じた。
その時、玄関の鍵を開ける音が聞こえ、体が一瞬固くなる。
僕の心臓の鼓動は早まり、隆二に振られるのではないかという気持に苛まれて目眩がした。
その時の僕は顔面蒼白だったと思う。
「ただいま」
隆二は僕の姿を見つけると半分ほっとしたような、それでいて少し怒ったような顔をしてリビングに入ってきた。
「守ー! お前、俺が毎日夜に連絡してたのに、全然繋がらなかったじゃないか、一体どこ行ってたんだ!」
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