第28話

 最悪な事が起きる時って泣きっ面に蜂状態になるのを思い出した。

 僕はいつも嫌な事が二段重ねにくるんだよなぁ。

 久しぶりに会ってしまった痴漢に家に戻っても心臓の鼓動が治まらない。

 冷静さをなんとか取り戻し、ベッドルームに落ち着くと改めて息を整え台本を開いた。


「こんなの覚えらんないよー!」


 更に違う種類の心臓の鼓動が僕に襲い掛かってきて、もう意識が遠のきそうだ。


 僕は貝塚隼人という名前の準主役なはずなのに物凄い数の台詞量だ。

 堪えきれなくなり、何度も枕に顔をうずめて悶絶を繰り返した。


 台詞長いっ!


 専門用語入りすぎ!


 ラブシーン濃厚すぎ!


 危ない台詞だらけ。


 もうやだエロい、酷い。


 ツラい……。僕こんな経験ないっ。


 しかも冒頭から法廷シーン。


 物凄く台詞が長いっ。専門用語の羅列。しかもいきなり殺人事件の裁判?


 ええとええと、刑法第38条……。


 1項 罪を犯す意思がない行為は罰しない。ただし、法律に特別の規定が。


 ええと、意義、処分、違法性の意識、違法性の意識不要説、違法性の意識必要説、違法性の意識の可能性。


 故意があるというためには、違法性の意識そのものは必要ではないが、違法性の意識がなかったとしてもそれだけでは……。


 うわぁあああ!!


 お前の○○○を○○○して○○○してやるって……あそこをこうしてああしてこうして、だめもう僕の頭の中で伏字になってる。


 無理明日までになんて覚えらんないよ、うわぁあああもうダメ……。これなんてプレイ? ううっ、この人サディスト? ううっ……。

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