第26話
彼の威圧的な態度と周りの人の期待に満ちた目で僕は頷くしかなかった。
「あっそ、じゃあこれ台本、明日から通し稽古ね。この家の地下に練習場があるから自由に使っていいよ、完全防音。どんなに叫んでも誰にも聞こえないからね」
そう薄く笑いながら他の人に合図をすると、幹部の1人が僕に台本を渡した。
って分厚い!重い! 表紙には『報復の律動』と書かれていた。
帰りの電車の中でも僕は心臓の鼓動が収まらない。今日は随分電車の中が混んでいる。
昨日は日曜日だったから混んでてもまだ人と人の隙間があったけど、今日は月曜日で夕方のこの時間はラッシュだったと今更後悔した。
何年かぶりにこんな混雑した電車に乗る。乗ってからこれが急行だと気づき、各駅にすればよかったと後悔した。
人が一気に僕の体にぎゅっとのしかかってくる。
混んでるからしょうがないよな。
しばらくして電車が発車し、ホームを滑り出すと、僕の背中にピッタリと体をつけてくる人がいた。
体のくっつけ方が少し変だったので、場所を変えようと動いたのだけど、なかなか移動ができない。
その背後の誰かが僕を移動させないように窓際に体を押し付けてきた。
あっ……。
体がびくりっと僕は反応してしまった。僕のお尻に誰かが手を添えたような気がして。
気のせいじゃないよね? これ……。
どう考えても大きな手が後ろから僕のお尻を撫で回している。
ど、どうしよう……。
前にもこんな事があった。それ以来満員電車は嫌になってしばらく長い間乗らないでいた。
でも今日はお芝居の事で動揺して頭が回らなかった。
まさか痴女?
後ろの人がふーふーと低い変な鼻息をかけてきて、その荒い息が僕の耳にかかってぞくっとしてしまう。
お、男だよね、やっぱり……。
僕は後ろの男に気づかれないように小さく息をした。体が硬直して酸欠状態だ。
男の手の動きが尋常でないので、僕は流石に頭に血が上ってしまって、その手をのけようと背後に手を回した。
すると男のじっとりとした汗ばんだ手が僕の手を掴んでくる。僕は恐怖で固まってしまった。
反対側のドアにもたれかけていた手が震えてしまって、もう今日は最悪な日だと思った。
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