第15話

「ふぅん、髪の毛は綺麗なのね……凄くいい香り……隆二さまも同じシャンプー使ってるのかしら? これどこのかしら? 教えなさいよ」

 僕の耳元で妙に猫なで声で尋ねる。

「……あのっ、僕はそういうのあんまり詳しくなくて、隆二の好きな物を使わせてもらっているから……」

 もう消え入りそうな声でしか話せない。でも涙声だけにはならないように必死だった。

「なに隆二さまを呼び捨てにしてんのよ! 隆二さまでしょ!」

「は、はい、隆二さんの使ってます!」

「使うなよ馬鹿、お前はお前で安物使っとけ。貧乏人の癖にたかりかよ!」

「はいっ! 安いの買ってきます!」

 もう自分でも何言ってるのかわからなくなった。僕のヘタレな即答振りにみんなが面白おかしく笑う。


 もうダメ……消えたくなってきた。


「お前さ……そのおどおどした態度止めてくれない? 隆二さまに迷惑だと思わないわけ?」

 服をぐいぐい引っ張られてなんか匂い嗅いでる人がいるっ、こ、怖いっ……。

「これ、隆二さんが着てたんだなぁ……欲しいなぁこれ……ちょうだいよ、ねぇ、ちょうだい……」


 うわっ、脱がさないでっ、僕、裸で帰れない!

 もう心臓がどうかなりそう。胸が苦しい……。


「隆二さんが好きで仕方ないなら、抜け駆けなんてしないで、一般のファンクラブ入会から始めなよ、俺たちがどんだけ彼に気に入られようと努力してここまで来たかわかんないの? それなのにお前は似合いもしないのにそんな服着て恥ずかしくないわけ? お化粧もしてないし、お洒落に対して努力もしてない。そんなんで隆二さんの男気取られても、隆二さんの印象悪くなるばっかりだし、迷惑なんだよね」

「ごめんなさい……」


 僕は体が震えて意識が朦朧としてしまっていた。もうたぶん声も震えてる……。

 

 ガムを噛んでた男が僕の顎に手を当てるとぐいっと僕の顔を持ち上げた。

 僕は彼の目を見ることができなかった。


「あれ? こいつ震えてる……。唇もなんだか真っ青で、よく見るとちょっと可愛くね? 隆二さんにもそうやって可愛い子猫ちゃんみたいにして甘えて寝取ったわけ? 芝居打ってるの?」


 ガムを噛みながら僕をあざ笑う。

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