普段「先輩」呼びするクールな先輩をただ「名前」呼びするだけ

普段「先輩」呼びするクールな先輩をただ「名前」呼びするだけ

作者 御厨カイト

https://kakuyomu.jp/works/16817139557973238448


 クールな先輩を照れさせようと「澪、好きだよ」耳元で呼ぶと、今夜は両親は仕事で留守だから「私の家来ないか、蓮?」と囁かれ、先輩には敵わないと思う話。


 疑問符感嘆符のあとはひとマスあける云々は目をつむる。

 年の差カップルならではの、親密さを高める儀式のようなやりとりを垣間見た気持ちにさせてくれる。


 主人公は後輩の蓮、一人称僕で書かれた文体。自分語りで実況中継で綴られている。場面や状況の描写がなく、会話文で説明している。


 女性神話の中心軌道で書かれている。

 付き合っているクールな先輩を照れさせようと、一緒に下校する主人公は、期末テストの結果を聞いては「流石先輩ですね……ガチで凄いです。尊敬します」と褒めたり、先輩の銀髪を「ホントにツヤツヤしていて綺麗ですね。何だか羨ましいです」と触ったり、ギュッと先輩の腕に抱きついたりしてみせるが、先輩を照れさせることができない。

 最後の手段と覚悟を決めて、「澪、好きだよ」はじめて彼女を名前で呼ぶ。先輩がようやく照れて達成感と満足感を得たとき、 

「ふぅん……私は今まで我慢していたというのに君はそういう事するんだ。分かった、それなら私にも考えがある」ニコリと笑った先輩は主人公の耳元で、「今日は両親二人とも夜勤で家に居ないんだ。だからさ……今日、私の家来ないか、蓮?」と囁いてくる。

 一瞬で顔を真っ赤にする主人公は、先輩には敵わないと思うのだった。


 主人公が先輩を待っていたのはどこだろう。

 靴箱前か、教室前の廊下か、校門のところか。

 状況の説明も描写もない。

 周辺情報を除外するということは、本作において描きたいのはクールな先輩を照れさせるただ一点のみだからだろう。

 だから先輩の銀髪という容姿も、会話文でのみ書かれている。

 先輩がどうクールなのか、普段の容姿描写を冒頭でしておけば、照れたときの反応が比較できてわかりやすくなる。

 テストの点数や髪などのやり取りをしているとき、先輩はどんな表情をしているのかまったくわからない。

「またしても照れることなく、軽く流す先輩」「飄々とした様子でそう言う、先輩」とあるように、照れていないことだけはわかる。


 それでも腕に抱きついてたとき、「先輩は、『ふっ』と微笑み頭をポンポンと軽く叩く」と変化を見せている。

 わずかな心の変化があったことがうかがえる。

 でも、「……どう考えても照れてない。何なら余裕まで見せられている」と主人公はみている。

 おそらく、先輩は嬉しい反応をしている。

 心のなかでは、嬉しくてエヘヘへと顔を赤らめながら、素敵なアバンチュールを過ごそうかと妄想しながらよだれを垂らしているかもしれない。

 そんな先輩の内面を推し量れず、「ここまでしても先輩を照れさせることが出来ないとは……結構悲しい」と主人公は勝手に思いこんでいる。

 だが、自身の不甲斐なさから最後の手段を取って、

「澪、好きだよ」

 と名前で呼んで気持ちを伝える。

 二つセットであるところが良い。

 なにげなく名前を呼ぶのも悪くないけれども、気持ちを伝えるここぞというときに呼ぶからこそ、先輩の耳にも届くというもの。

 

「今日は両親2人とも夜勤で家に居ないんだ。だからさ……今日、私の家来ないか、蓮?」

 これは先輩からの仕返しだろう。


「先輩は妖艶に、蠱惑的に僕の顔を見ながら、微笑んだ」から邪推すると、先輩は微笑みながら目は本気だったに違いない。

 先輩の中ではすでに、今夜は寝かさなよとささやきながら、初キスはディープで、インナーは黒レースに決めて、欲望のおもむくままに朝チュンをむかえる妄想プランが出来上がっているかもしれない。

 脳内妄想をだだ漏れしないだけの理性を保っているところが、先輩のクールさ所以かもしれない……と勝手に想像する。


 主人公は、彼なりに背伸びをして頑張った。

 けれども、先輩は想像の斜め上をいっていたのだろう。

 実際のところは知らないけど。


 どんな一夜を過ごしたかは、読者の想像に委ねられている。

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