パラレルワールドの反逆者〜デブでいじめられっ子の俺が痩せて帰ってきたら貞操観念が逆転した世界に!?男が有利らしいので頑張ります〜

悠/陽波ゆうい

序章

プロローグ

【今回の学習】

三日月が彫られた丸型の銀色ネックレス

————————————————————


 懐かしい夢を見た。


 なんにでも怯え、弱かった子供の頃の自分を。

 

 そして、運命的な出会いを。



『どうして君は泣いているの?』


 木の下でうずくまり、泣く僕に誰かが声を掛けた。見上げると、同じ年齢くらいの女の子が不思議そうに首を傾げていた。


 警戒する僕に、彼女は続ける。


『しかもこんなにボロボロ……。どうしたの?』


「うぅ……みんな僕をいじめてくるんだ……」


 僕は恐る恐る口にした。

 つい先程まで同じクラスの男子にいじめられていた。どうすることも出来なかった僕はただ、ひたすら泣いて我慢するだけ。そのため、全身泥だらけだった。


『どうして君をいじめるの?』


「ひぐっ……僕が太ってるから……」


 僕の体型は普通の子よりも大きく、お腹なんてポッコリ出ているいわゆる肥満体型。それがよほど面白いのか、彼らはよくいじめてくる。


『それが原因なら痩せればいいじゃん』


 彼女が言うことは正しい。

 誰に相談してもそう返ってくるだろう。


 でも……


「努力してるもん……痩せようとしてるもん……」


 僕だって何度痩せようと努力したか。運動したり、食生活を変えたり……でも全く効果がない。もう痩せることを諦めていた。


『死ぬ気でやってる?』


 その言葉に詰まる。

 死ぬ気でと言われると、甘えてある部分もある。

 

『出来損ないが目標を達成するには、死ぬ気で努力するしかないんだよ』


 僕の隣に座る女の子。

 数秒、静寂が訪れる。

 そして静寂を破ったのは彼女の方だった。

 

『……もし、生まれ変われるなら次はどんな世界がいい?』


 なんの突拍子もない質問だ。


 生まれ変われるなら今すぐ生まれ変わりたい。


 僕の理想の世界……

 

『いじめられない世界がいい……』


 今、僕が願うのはそれだけ。自分がいじめられない世界がいい。暴力を振るわれるのも、暴言を言われるのも本当に辛い。体験している本人しか分からない辛さだ。


 誰かに相談しようにも、担任の先生は知らんぷり、家族には迷惑が掛かるから相談できない。


 今の現状を変えるにはやっぱり僕自身が変わるしかないよね……。

 

『そっか……』


 彼女が立ち上がったと思えば、首元にひんやりした感触がした。


「これ、なに……?」


 見ると、三日月が彫られた丸型の銀色ネックレス。


『それ、お守り代わりにあげるよ』


 そう言う彼女の首元には、三日月型の金色のネックレスが掛けてあった。僕のネックレスに彫られている三日月にぴったり重なり合うサイズだ。どうやらこれはペアネックレスのようだ。


『辛くなったり、挫けそうになった時にそれを握りしめるといいよ』


「握りしめたらどうなるの?」


『ちょっとした勇気が貰えるよ』


 確かに、このネックレスを掛けていると不思議と安心感があるような。


『叶うといいね、その願い。でもまずは君自身が変わらないといけないよ』


 そう言い残すと、彼女は僕から遠ざかっていく。


「待って! 君の名前は……!」


 瞬間、強い風が吹いた。思わずギュッと目を閉じる。


 風が収まり、再び正面を見るが、彼女は居なくなっていた。

 




「あれからもう5年か……」


 目を開き、懐かしい夢を思い返す。


 俺、八城碧月あつきは5年前の小学6年生の頃までいじめに遭っていた。原因は体型である。デブで弱虫だった俺はいじめの標的にされた。


 暴力、暴言、陰口。繰り返されるいじめに嫌気がさし、いじめっ子たちを見返すためにダイエットもとい爺ちゃんの元で修行を始めた。


 それから努力のかいあって、体型は細マッチョと呼ばれるほどになった。

 

「結局、あの女の子と会えずかぁ」


 5年前のあの日。俺にネックレスをくれた彼女とはあの日以来、会ってない。正確に言うと、俺が山籠り修行をしていて探せない。


「また、会えるよな……」


 三日月が彫られた銀色のネックレスを握りしめ、そう呟く。


 あの日、彼女と出会ってなければ俺はいじめられたままだった。


 痩せるきっかけを、努力するきっかけを作ってくれたのは間違いなく彼女だ。


 痩せた今の姿で彼女にお礼を言いたい。「君のおかげで俺は変わることができたよ」と。


「明日はいよいよ下山の時だ」


 爺ちゃんのお許しが出たので明日はやっと家族とも会える。5年前に急に家を出て行くって言った時は母さんも妹も泣いていたなぁ……。


 再会したらどういうリアクションをするかな?

 俺のことちゃんと覚えてくれてるかな?

 体格変わりすぎて気づかないとかないかな?


 あと……


「いじめっ子達にも会うのかな……」


 いじめっ子達には正直、会いたくない。たとえ覚えていたとしても、もういじめられる心配はないだろう。俺はこの修行で体術、忍耐力など様々なものを身につけた。今の俺ならいじめられても反撃できる。


「いじめっ子どもめ、待ってろよ!」


 拳を握りしめて、俺は夜空に輝く満月を見上げた。


 


 

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