アナタへ……

葉月いつ日

貴女へ

拝啓、お元気ですか



あの頃、僕が見ていたいた夢を覚えていますか?


それは独りよがりで我儘な僕だけの夢だったのです


なのに貴女はそんな僕の夢に触れ、いつしかそれは二人の夢になり


貴女は僕と共に歩いてくれました




あの頃のことを、僕は忘れた事はありません


僕の我儘が発端で喧嘩をしては貴女を泣かせたり、クジ付きの小さなお菓子で当たりを引いて大喜びしあったこと


何でもない日に何も喋らずに手を繋いで川沿いの道を、ただゆっくりと時間をかけて歩いたこと


僕たちの時間は確かにそこにありました




あの頃の夢はいったい……


いったい何処に行ったのでしょう




貴女と離れてどれくらい経ったのでしょうか



時が過ぎ行く中で、あの時の思い出が


まるで水が流れゆくように


風に飛ばされてゆくように


少しずつ僕の中から溶けだしていくようで


共に育み


重ね続けてきた


あの夢の形が朧気となって日常に奪われ続けているようで




目に映ることもなく、手に取ることも出来ない


そんな薄れゆく思いを探すために、僕は言葉を紡ぎ続けています


僕の思いが


僕の心が


大切な貴女に



届くことを願って





こうして旅立つことの出来ない封筒が、今日もまた引き出しの中に積み重なっていきます



始まることも無く


終わることすら出来ない


そんな僕の言葉の音色が、いつか形となり


そして日常の風に流される時があるのなら


その時こそ、僕はこの封筒達に切手を貼って、暗闇の中から解き放ってあげよう




そう呟きながら僕はひとり


ギターケースを持ち上げ、都会の喧騒に溶け込むように身体を投げ出していった



誰にも言えなかった恋を


共に育むことの出来なかった夢を




たどり着くことの出来ない遥か彼方の貴女へ届けるために



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