第70話 ルサルカ視点 それはとても素敵なことだと思えた

 夕食を食べ終え、部屋に戻ると、あたしはすぐにクローゼットを開けた。綺麗に畳まれた服の中から、厚手の物を取り出す。これでいっか。後はパンツも取り出して準備完了。あたしは目的の物を手に入れるとすぐに部屋を出た。いつも皆と過ごしているからか、一人の部屋はとても冷たく寂しく思えて苦手だ。皆みたいに使い魔と一緒に居られたらいいのに。イノリスは大きすぎて、女子寮に入れないから一緒に居られない。仕方ないことだけど、それはとても寂しいことだ…。


「あ、そうだ!」


 イノリスが女子寮に入れないなら、あたしがイノリスの所で寝るのはどうかな?外は寒いけど、イノリスは温かいからたぶん平気だ。イノリスもいつも一人じゃ寂しいだろうし、良い考えなんじゃないかな。今度イノリスに話してみよう。


「ふふ~ん♪」


 我ながら良いことを思いついたなー。なんだか嬉しくなってくる。でも、それはまたのお楽しみに取っておこう。今日はアリアの部屋でお泊りなのだ。


「あ!」


 部屋を出て、アリアの部屋に向かう途中で思いつく。お湯を持って行ってあげるのはどうかな?アリアも身体を拭くし、お湯は必要だ。なら、あたしが持って行ってあげれば、きっと喜んでくれる。あぁ、あたしってばなんて気の利くお・ん・な!


 あたしは回れ右をして食堂に向かう。食堂の奥、調理場で働いてるおばちゃんにお湯を貰ってアリアの部屋へ。


 コンコンコン


 ノックをすると、すぐにアリアが出た。


「ルサルカ、早かったわね」


「一人は寂しくて」


「そうね、そうかも。どうぞ、入って」


 アリアの部屋は殺風景な部屋だ。備え付けの机と椅子、ベット、クローゼットしか家具が無い。あたしの部屋と一緒だ。


「お湯貰って来てくれたのね。ありがとう。じゃあ、冷めない内に体拭いちゃいましょ」


「うん!」


 早速服を脱いで裸になる。夜の冷たい空気が体に触れてとっても寒い。早く拭いちゃお。タオルをお湯に浸して絞り、体を拭いていく。ほかほかのタオルが体に触れると温かいけど、タオルが離れると余計に寒くなる。


「寒いー!」


「早く拭いちゃいましょ!」


 アリアも服を脱いで体を拭き始めた。アリアの体が目に入る。ついつい胸に視線を注いでしまう。やっぱり少し膨らんでる。ヒルダ様やレイラには遠く及ばないけど、たしかに膨らんでいた。あたしは思わず自分の胸と見下ろしてしまう。ぺったんこだ。悲しくなるくらいぺったんこだ。先端が虫刺されの様にちょっと尖っているだけで後は平坦だ。


「はぁ…」


 思わずため息が出てしまう。あたしの胸はいつになったら膨らむんだろう…。そもそも、ちゃんと膨らんでくれるかな?心配だ。


「その…そのうち膨らむわよ。だから元気出して」


 覚られた!?あたしが胸で悩んでることを覚られた!?なにこれ、ちょー恥ずかしい!


「な、なんで?!」


「そりゃー、あんな露骨に見られたら気付くし、その後自分の胸見てため息つけばねぇープッ」


 この女笑いやがった!


「フフフ、ごめんなさい。でも、かわいくて、つい、フフ」


 かわいいって言っとけば何言っても許されると思うなよ!思い知らせてやる!あたしはアリアの胸に手を伸ばした。


「痛った!ちょっ!摘ままないでよ!痛い痛い痛い!揉むな!」


「取れてしまえ!取れてしまえ!」




「へっくし!」


 くしゃみが出た。体を冷やしすぎたかな?あたしは温もりを求めて、布団の中に潜った。潜ったら、暗闇で光る二つの金色の瞳を見つけた。クロだ。あたしはクロに手を伸ばす。温かい。毛もモフモフで気持ちが良い。あたしはクロを抱き寄せて暖を取ることにした。


「にゃー」


 クロが抗議の声を上げるけど、こんなに温かいのが悪いのだ。抗議は却下。そのまま抱き締める。温かい。クロは抵抗を諦めたのか、されるがままだった。おとなしい。


「にゃー…」


「はいはい。ルサルカも気が済んだら離してあげてね」


 隣で寝ているアリアに注意されてしまった。きっとクロが助けを求めたんだと思う。


「はーい」


 布団から顔だけ出して応える。二人ともベットで横になっているけど、部屋の明かりも点いているし、まだ寝るには早い時間だ。暖房の魔道具が無いので、布団に包まって暖を取っているだけ。


「ねぇルサルカ。ヒルダ様の話、どう思った?」


「ハンターのこと?」


「うん」


 お昼のお茶会の時、ヒルダ様に一緒にハンターをやらないかと誘われた。アリアもレイラも誘われていた。アリアもハンターには乗り気なように見えたけど、違ったのかな?


「あたしは、アリだと思う。軍はダメみたいだし」


 軍はパンモンデのせいで危ないらしい。


「そうなのよねー…他に道は無さそうだし…」


 アリアの態度は煮え切らない。ハンターにはなりたくないのかな?


「アリアは反対?」


「…正直、私もアリだと思うんだけど……ヒルダ様の言うように簡単にはいかないと思うのよ」


 そうかな?たしかに大変なこともあるかもしれないけど、皆となら乗り越えられる気がする。


「できるよ!皆となら!」


「…そうね。私も前向きに考えてみる」


「うん!」


 アリアの言うように、ハンターは大変な仕事かもしれない。でも、動物の解体も習ったし、棒術も練習してる。やってやれないことはないと思うんだよねー。皆と一緒なら。それに、ハンターなら卒業しても皆と一緒にいられる。それはとても素敵なことだと思えた。

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