第47話 お茶会
「夏休みも明日でお終いかー……」
アリアの声には悲哀の色があった。我も夏休みが終わるのは悲しい。また授業とやらに出なくてはいけなくなるからな。
「なんかなにも無かったわねー……」
そうだろうか? 王都観光に買い物に女子会に……色々あったような気もするが……我も随分付き合わされた。主に荷物持ちとして連れ回された感じだ。今日もこれからお茶会なるものが催されるらしい。
「ところで女子会とお茶会は何が違うんだ?」
「分かんない。私、お茶会なんて初めてだもの」
なんでも、この間催された女子会に出席できなかったことを、ヒルダが大いに悲しんだらしい。なので、今回はヒルダも交えてお茶会なるものが開催される運びとなったようだ。
「そろそろ時間かしら? 先にレイラの部屋に行っておきましょ」
アリアが立ち上がる。アリアのスカートがヒラリと揺れ、パンツがチラリと見えた。今日は淡いピンクか。この間買い物に行ってから、それまで白一辺倒だったアリアのパンツも、随分とまあカラフルになった。今では「本日のパンツの色当てクイズ」もできるほどだ。我の予想は白だったのだが……今日は外れてしまったか。また明日だな。
レイラの部屋に行くと、すでにルサルカの姿もあった。ふむ、ルサルカはオレンジ色か。一瞬穿いてないのかと思った。レイラは白色だった。アリアやルサルカのものに比べると、随分と飾りが豪華な印象だ。
一口にパンツと言っても、色々と種類があるらしい。もしかしたら、人間は皆ハゲているから識別のために衣類を身につけるのかもしれないな。もし猫が何らかの理由でハゲてしまったら……そんなことは起こってほしくは無いが……識別に苦労することになるだろう。我々は体の大きさや毛並みの艶や柄で相手を判断しているのだからな。
しばらくアリアたちが三人で話していると、ヒルダがやって来たことを知らされた。知らせを受けた我らは、女子寮の玄関へとヒルダを迎えに行く。
「本日はお招きありがとうございます」
なんか久しぶりにヒルダの姿を見たな。この前の買い物以来か。ヒルダの横には小柄な白猫、リノアの姿も見える。ちなみにヒルダは黒色だった。だが、三人に比べると随分布面積が少ないように見える。後ろなんてただの紐だ。こんなのもあるのか。パンツとは意外と奥が深い物なのかもしれない。
「狭いところですけど、どうぞゆっくりして行ってください」
ヒルダを交えて、全員でレイラの部屋へと戻る。しかし、流石に四人と三匹も部屋に入ると少々窮屈だな……。息が詰まるとまではいかないが、自分の場所に勝手に入られたような小さな不快感を感じる。
「だから、追い出されたという訳だ」
『そうなの…』
「もう、人聞きが悪いですよ。イノリスさんに挨拶しにきたのに」
我ら使い魔三匹は、イノリスの居る中庭まで来ていた。こうして四匹で集まるのも久しぶりの事だな。
『なんだい、違うのかい』
『えぇえぇ、もちろんですとも。私達の主はそこまで酷な真似はしませんよ』
ちなみに、姉御っぽいのがイノリスで、うるさいのがキースだ。我の中では、イノリスはもっとお淑やかなイメージだったんだが……違ったらしい。
「分からぬぞ? 使い魔が居ないのを良いことに、今頃使い魔の悪口大会かもしれん」
『こらこらクロ坊、なんてこと言うんだい』
我の冗談に、イノリスが怖い顔をして我を𠮟り飛ばす。なんとも、まるで子どもの躾けをしているような大袈裟な態度だ。
「“クロ坊”はないだろう。我は大人だ」
『へんっ! あんたみたいな甘えたがりはクロ坊で十分さ』
くそっ。これまで甘えて楽をしていた罰なのか、イノリスは我を大人として見てくれない。初めは本当に子どもだと思って甘やかしていたようだ。知りたくなかった事実だな。
『しかし、本当に何をしているんでしょうね? たしか、お茶会でしたか?お茶を飲む会なのでしょうけど、いったいどんなお話しているのやら、私には皆目見当もつきませんよ』
「この間の女子会とやらも、何を話していたのか、聞いても答えてくれんからな」
「女子会ですか?ヒルダが出席できなくて、とても悔しがっていましたよ」
我ら四匹の会話は尽きない。話題は主にそれぞれの主人についてだ。しかし、このまま永遠に続くかに思えた会話も、予想外のことで中断される。キースの魔力切れだ。我らが種の壁を越えて会話できるのもキースの魔法のおかげである。それが切れたら、我らの間に会話は成立しない。リノアとは同族だから会話できるがな。
『皆さん、すみませんね。魔力が回復したら、またすぐに繋ぎますので、それまでしばしのおさらばです。ではではー』
キースの言葉を最後に、我が感じていたまるで糸が頭に付いているような感覚が途絶えた。
キースはまだまだおしゃべりがしたいらしいが、我としてはもう十分話した気分だ。青かった空は赤く染まりだしている。むしろしゃべり過ぎたまであるな。こんなに長い間話をしていたのは、もしかしたら初めてのことかもしれない。心地よい疲れを感じながら、我はイノリスにもたれ掛かる様に芝生の上に横になった。
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