第14話 やる気
我の中の常識が破壊されてから、あのネズミとワイバーンの戦いを見てから何日経っただろうか。我は魔法を諦めていた。
あれから我は、アリアに促されるまでもなく魔力の感知に全力を傾けていた。しかし、寝る間も惜しんで自身と向き合おうとも、何をどうしても魔力の感知ができなかった。魔力の感知ができねば魔法は使えないらしい。無理だこれ、無理無理。
我が魔法を使うなど、土台無理な話だったのだ。
「なぁ、イノリス~」
「にゃ~…」
イノリスが我の声色に寂しさ、悔しさを見て取ったのか、ベロリと頭を舐めて慰めてくれる。イノリスはいい女だ。世話好きで、芯が強く、時に我を甘やかし、時には叱咤してくれる。我が同種ならば放っておかなかっただろう。何故、我はイノリスを警戒し、距離を置こうとしていたのやら。過去の自分を問い詰めてぶん殴りたい気分だ。
ガサリ
音がした方向に目を向けると一匹の猫がいた。白い猫だ。白猫はこちらを見るなりビクリと体を震わせ、静かに静かにゆっくりと去ってく。失礼な奴め。イノリスを見るとやはり寂し気だ。イノリスは感じやすい女だ。きっとまた白猫を怖がらせてしまったことを悲しく思っているのだろう。我は失礼な白猫への罵倒を飲み込み、慰めるためにイノリスの首筋に舌を這わす。
「にゃー」
大丈夫、気にしてない。そんな声だ。そして慰めたお礼なのか、こちらの頭をベロリベロリと舐めてくる。まったく、いい女だぜ。
ゴーンゴーンゴーン
授業終了の鐘が鳴る。本当なら教室まで行かなくてはならないが…どうせイノリスに会いに此処に来るのだ、構うまい。しばらくすると、三人の姿が見えた。アリア、ルサルカ、レイラのいつもの三人だ。
「イノリスー!」
ルサルカが走ってイノリスに飛びついてくる。イノリスはビクともせず、余裕でルサルカのダイブを受け止めた。流石だ。
「アリアー、クロここにいたよー!」
「もう、クロ。教室に帰ってくる約束でしょ?今日は先生の所に行くんだから早くこっち来なさい」
アリアがお冠だ。どうせここに来るのだからいいだろうに。それにしても、歩くのだるいな~。
「イノリス~」
「にゃ」
イノリスが、仕方ないわね、と言いたげな声を放ち、我の後ろ首根っこを優しく咥えると、アリアの元まで歩き出す。
「来たぞ、アリア」
片手を上げてアリアに挨拶する。
「イノリス、うちの子がわがままでごめんなさいね。クロもこれくらい自分で歩きなさい」
「面倒でな。ありがとう、イノリス」
我はイノリスの口からアリアの胸の中に渡された。
「にゃ~」
「イノリスも迷惑ならはっきり言ってちょうだいね。あんまり甘やかさなくてもいいんだから。」
イノリスの言葉は我には分からない。だが、ニュアンスなら大体わかる。イノリスは嫌がっていない。こいつは世話好きだからな。逆に喜んでそうだ。
「じゃあ私、先生の所に行ってくる」
「はーい」
「いってらっしゃい」
アリアが先生の所まで歩き出す。
「あなたって地味に重たいのよねー。ほら、もう自分で歩いて」
「面倒だな」
我は降ろされてたまるかと、アリアにしがみつく。
「きゃっ。こら、胸に爪を立てるのはやめなさい!」
結局降ろされてしまった。仕方ない、歩くか。はぁ…。
「あなた、日増しに図々しくなっていくわね」
「失礼な」
言い合っている間に先生の部屋まで着いていた。それにしても今日は何の用なのだろう?前回と違い、用件は伝えられていない。
コンコンコン
アリアが扉を叩く。相変わらずこの謎の儀式はよく分からない。
「開いているよ」
「失礼します」
「アリア、我は必要か?必要なければ中庭で待っているが」
そしてイノリスとゴロゴロして過ごしていたい。
「あなたも必要よ。だってあなたの用だもの」
我の?一体何の話だろう。心当たりがない。我はアリアに促されるままに先生の部屋へと入った。
たくさんの本や巻物に囲まれた少々カビ臭い部屋。此処が先生の部屋だ。
「ハーシェ君か。今日はどうしたんだい?」
「先生、使い魔の事で相談がありまして…」
「ふむ、まぁ掛けたまえ」
前回と同じようにアリアが椅子に座った。我も同じように椅子の横に座る。
「先生が前に言っていた最終手段を聞きに来ました」
「最終手段?あぁアレか。聞くということは、君の使い魔は魔法が使えなかったんだね。でもアレは使い魔の負担が大きくてね。おいそれと教えるわけには…」
「先生お願いします。もう来週には使い魔のテストがあるんですよ!?このままじゃ落第になっちゃいます!」
「それはそうだが…。本当に君の使い魔は魔法を使える見込みはないのかね?今どんな状態なんだい?」
「まだ魔力の感知ができないんです。それに使い魔の方もやる気をなくしてしまったみたいで…」
バレてる!?
最近は真剣に魔力探してなかったからなぁ、半分寝てたし、流石にバレるか…。
我も出来るなら魔法を使いたい。力への渇望は今でもある。しかし、何をどうやっても魔力を感知できないのだ。無い物を延々と探し続けるのは、だんだんと気が滅入ってくる。次第に我のやる気は摩耗していった。今では魔法自体諦めているくらいだ。
「ふむ、魔力の感知が………いけるか?いやしかし…早い方がいいか…。そうだな、使い魔君自身に決めてもらおう。使い魔君、話を聞いていたね?…君には二つの選択肢がある。一つはこのまま魔力感知を続けること。もう一つは魔法が使えるようになるかもしれないが、危険がある方法だ」
このままダラダラと過ごしていたいのだが、そんな選択肢はなかった。ちぇっ。しかし、どうしたものだろうか、まぁ答えは一択しかないのだが。自力で魔力を感知することは、もう無理だと思っている。解決の糸口さえ見えない。
それに、魔法が使えるようになる可能性があるならば、例え危険があろうと賭けるべきだ。それほどまでに魔法とは魅力的だ。我の中で魔法への欲が、力への渇望が大きくなっていく。
アリアを見上げる。アリアはこちらを真剣な目で見ていた。手を組んでまるで祈っているようだ。そんなに心配しなくても答えは決まっているとも。
「我はやるぞ、アリア!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます