第7話 ルサルカとレイラ

「その子がアリアの使い魔だね。あたしはルサルカ。よろしく!」


 赤毛で緑の瞳を持つ人間が、こちらに向かって挨拶をする。この赤毛がルサルカか。自分から挨拶するとは、殊勝な奴だ。覚えておこう。


「私はレイラです。よろしくね、猫ちゃん。こっちは私の使い魔のキース。仲良くしてあげてくださいね」


 白髪の方がレイラ。その使い魔が青い小鳥のキースか。


「二人ともありがとう。これが私の使い魔のクロムよ」


「かっこいい名前だね。オス?」


「えぇ。たぶんオスよ。声が男だもの」


 猫の性別が分からんとは失礼な奴らだ。見れば分かるだろうに。でも、それも仕方ないのかもしれないな。我から見れば、人間はあまり判別がつかない。ルサルカとレイラも性別が分からんな。どっちだ?


「アリア、コイツら男か?女か?」


「はぁ。二人とも女よ」


 アリアがため息をつきながら教えてくれる。仕方ないだろう、分からないのだから。


「どしたの?」


「あぁ。クロムが二人の性別が分からないみたいでね」


「あたしはともかく、こんな美少女捕まえてなんてこと言うのよ!」


 ルサルカがレイラに抱きついた。


「きゃっ。もう、ルサルカもかわいいわ」


 ルサルカとレイラがお互いに褒めあっている。なんだこれ?


「あたしの使い魔は今連れてないから、よかったら後で顔見せてあげて」


「えぇ。授業が終わったら一緒にいきましょ」


 三人は話しながら食堂へと歩いていく。三人の話は尽きることがない。そんなに横を見て話しながら、よくまっすぐ歩けるものだ。素直に感心する。




 三人と一羽と一匹が食堂に到着する。食堂は朝とは違い大盛況だった。ものすごい人の数だ。三人はなんとか三人分の席を確保すると、奥の方に昼食を取りに行く。


「いい?良い子で待ってるのよ?」


 幼い子供に言い聞かせるような口調には物申したい気分だ。



 しばらくして三人が戻って来る。


「はいこれ」


 アリアが我の前に器を二つ置く。器の中身は今朝と同じように見える。我は一縷の望みをかけて肉に齧りつく。美味い。美味いが今朝と同じ肉だ。昨日の肉じゃない。


「アリア!約束と違うではないか!これは昨日の肉ではないぞ!?」


 三人で話しながら食事を摂っていたアリアはこちらを向くと。


「あれは夕食に出るの。ちゃんと頼んでおいたわよ」


 まったく。と呟くとアリアは食事に戻った。そうか我の早とちりだったか。アリアは約束を守ってくれるらしい。これは我も守らねばならんな。だがしかし、あの授業という時間は苦手だ。訳の分からんことを永遠と聞かされるのは精神的に辛いものがある。


「なぁアリア」


「ん?どうしたの?」


「我は授業に出たくない。どうも苦手だ」


「うーん…」


 アリアは悩んでいる。ダメか?


「どしたのアリア?」


「クロムが授業に出たくないみたいで」


「まぁ!」


「いいんじゃない?ウチのイノリスも出てないし。必要なのは使い魔の授業だけでしょ?」


 なんと!赤毛のルサルカが我の援護をしてくれた。がんばれルサルカ。


「さぼり癖とか付かないかしら?」


「大丈夫じゃない?」


「今もおとなしく待ってますし、きっと大丈夫ですよ」


 白髪のレイラも我の援護をしてくれる。こいつら良い奴だな。


「はぁ。分かったわ。でも、クロムが必要な授業は絶対出てもらうからね。それと鐘が鳴ったら一旦教室に戻ってくること。それができるなら、使い魔の要らない授業に出なくてもいいわ。約束できる?」


「あぁ、約束する」


 やったぞ!これで授業とはおさらばだ。使い魔の必要な授業には出る必要があるのは、まぁ仕方ないと諦めよう。我を必要としているみたいだしな。


「じゃあ今日の午後は好きにしてもいいわよ。ただし、授業後に先生に相談しに行くから絶対鐘が鳴ったら教室に帰ってくること。わかった?」


「分かった」


 早速自由時間か、幸運だな。これを機に周辺を探索してしまおう。


 肩の荷が下りた気分だ。授業は我の予想以上にストレスになっていたらしい。飯が今朝以上にうまく感じる。ガツガツ食べる。ここの飯は美味いな。


 早々に食べ終わってしまった。物足りなさも感じるが、これ以上は貪るというものだ。自重しよう。


 アリアを確認するとまた無防備に食事を摂っていた。二人と話しているせいか、今朝にもまして周囲の警戒が疎かだ。ルサルカとレイラも同様のようだ。やれやれ、また我が警戒しなくてはいけないのか。



 ふと気になってテーブルの上の小鳥、キースの様子を見る。キースは我と目が合うとビクッと硬直したが、しばらくしたら飯を食べ始めた。チチチッとくちばしで飯を啄み、その後、首を回して周囲を確認している。キースの奴は警戒ができているようだな。そのことに満足感を覚え、我も警戒に戻った。




「ごちそうさま!あたしはイノリスにご飯あげなきゃだから先行くね。二人はゆっくり食べて」


 ルサルカが食べ終わると同時に立ち上がり、そのまま行ってしまう。なんとも忙しない奴だ。顔くらい洗えばよいのに。


「ルサルカも毎日大変ですね」


「使い魔が大きいから食堂に入れないんだっけ。意外といるらしいわよ」


 ルサルカの使い魔は大きいらしい。しかし、ここに入れないとなると相当大きい事になるんだが、いったいどれだけ大きいのだろう。



「「ごちそうさま」」


 アリアとレイラが食べ終わる。キースも終わったようだ。二人はこのままここでゆっくりしていくらしい。立ち上がる気配がない。食事も終わったし、もう警戒はいいか?そろそろ外に探索に出たい。


「アリア、我はもう行くぞ」


「うん…。鐘が2回鳴ったら絶対教室に帰ってくるのよ?」


「分かっている」


 我は二人に背を向け食堂を出て外を目指す。待望の自由時間だ!

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