第42話 人を巻き込む才能はある #紹介配信
俺の放った一言は、瞬く間にネット上で拡散されトレンド入りするまでになった。
前からちょくちょくトレンドに入ったりはしてるんだけど、1位になったのはビビった。
「登録者も80万いきそうだし、なんでそんなに増えるんだよ……」
毎日3万以上増えてる気がする。
個人勢でここまで伸びを見せるのは珍しいんじゃないだろうか。海外ならまだしも日本でこれは自画自賛できるレベルにある。たまーに緊張で吐きそうになるけど。
アンチに負けない精神力はあるんだけど、その分普通の配信を終える精神力が身につかない。普通逆じゃね?
「起業するって言っただけじゃん」
とは言っても、俺自身に知識は少ない。
だから人を巻き込む。最悪失敗しても賠償金を払えるだけの金額はあるからな。少人数の予定だし。
「さてさて。連絡するかぁ!」
☆☆☆
「「「「は?」」」」
☆☆☆
「よし、オッケー。色々言われたけど気にしないことにする」
Vtuber事務所を設立する予定だが、一人じゃ何もできないし、知らない人を雇うのはリスクが高い。俺の貞操のな。リスナーならまだしも。
そんなわけで、巻き込んだ人材はこちら。
神連、仲嶺、開発者、コロン、シスター・アリアというか『さんじかい』。
夜旗は普段の役職的に不可能。ただしバックアップはできるだけしてくれるそう。
シスター・アリアもさんじさいから引き抜くこともしない。リスクが高いし、それはさんじかいという途轍もなく大きい事務所を敵に回すことになる。
その代わり、さんじかいの傘下に入ることで恩恵を貰うことにした。
いずれ独立するまでに後ろ盾になる。
無償ではなく、将来的に利益を回すことを条件としてだ。それも破格としか言いようがない。
シスターが説得その他諸々をしてくれたお陰だ。俺一人じゃ不可能だったに違いない。
コロンは元々個人勢に限界を感じていたことと、他にも目的を果たしたいことがあるとのことで事務所に所属してもらった。
実質的に、立ち上げた事務所のVtuberは俺とコロン二人だけになる。
神連は純粋に就職先として、明らかに新卒一年が貰える給料を越しているから入った。がめつい奴め。
人脈、交渉担当である。
仲嶺は保護官と事務処理担当。
ため息を吐きながら二つ返事で許可してくれた。頭が上がらねぇ……。
開発者は技術全般の担当。
web系統の全てを賄うことができるらしい。相変わらずのチート性能。
他にも俺の3Dモデルと立ち絵を担当してくれた、イラストレーターとモデラーを、事務所の専属契約として雇用した。
どっちも俺のリスナーだし、金が貰えるなら是非も無しとのこと。軽いな。
「あとは税金と法律関係の諸々をやんねぇと……。神連の知り合いに税理士と弁護士いるか……?」
多分いるし、いなかったら夜旗に紹介してもらおう。
人任せすきて草も生えんわ。
俺が社長で良いのか、これ。やること大して変わらんぞ。
ちなみにこれらのやり取りはわずか一週間の間に起きた出来事である。
すでに来月から事務所を開設するし、新人を採用せねばならない。
「動きが目まぐるしい……。物事を早急に動かしたい俺の心根が裏目に出たな」
さて、とりあえず配信するかぁ。
☆☆☆
「やっほー。いつもの挨拶する程元気がないんだわ。許して」
ーー
『おつ』
『起業するって言ってからバッタリ配信止めたからしばらく無いのかと思った』
ーー
「あー、明日からボチボチ再開していくぜ。今日は起業関係で話したいことがあるんよ。まあ、宣伝だな」
ーー
『黒樹が起業かぁ……嫌な予感しかしないんだよなぁ』
『倒産とかしなさそうだけど、物事に大きな影響与えそう』
『ついに日本終わったなw』
ーー
ひでぇ言われようである。
だが、俺が起業することに関してそこまで悪印象はないようだ。一先ず安心。罵倒があってもどうせいつものツンデレだし。
「色んな人たち巻き込んでるからな。もう止まれねぇんだよ……!!」
ーー
『悲壮感出してるけどお前が戦犯なの分かってる???』
『元凶が何を……w』
『巻き込んだのお前だろwww』
『ブレーキついてないもんな』
『スリップすんなよw』
ーー
まあ、止まれないのは事実。
というか止まる気は無い。いつでも全力フルスロットルで進んでいく心持ちだ。
「簡単に俺のやる気度合いを説明するとな。……かつてないほど心のてぃんてぃんがいきり立ってる。決意もガッチガチよ」
ーー
『最早取り繕う気無くて草』
『ただの下ネタじゃねぇか()』
『心の、ってつければ何でもありなようにすんなw』
『とりあえずやる気が漲ってることは分かった。ヤル気は知らん』
ーー
「てぃんてぃんは下ネタじゃねぇよ。性癖だ」
ーー
『下ネタじゃねぇか!!w』
『額面通りに受け取ったらそれはもう下ネタなんよ』
『ナニがどう違うのか分からんわw』
『ナニが』
ーー
俺が下ネタじゃないと言えばそうなるんだよ、多分。
ソースは無い。
「まあ、宣伝すっぞ。俺らのVtuber事務所『TINTIN』は望むモノを実現したい欲求があれば誰でも応募可能だ。別に自分という存在を世界に知らしめたいみたいな感じでも良いし、話すのが苦手でも別の方向から攻めればいいし。本当に応募は誰でも良い。その代わり、今から募集する一期生は定員二名だから結構厳しく審査する。0期生は俺とコロンな」
ガワのお金は俺が全部出す。
必要なのはその強い志だけだ。何てことはない単純明快な話である。俺を超える逸材がいれば速攻で雇用だな。……異端である俺を超えるとなると相当癖が強いだろうけど、それを扱いこなせるかは分からない。やるしかねぇもん。
ーー
『名前がもうwww』
『T I N T I N』
『草』
『欲求かぁ……(意味深)』
『やっぱりコロン巻き込んだのかw』
『また被害一覧が更新されていくwww』
ーー
「ちなみに『さんじかい』の傘下……まぁ、下部組織ってやつだ。コラボは容易になるし、企業勢としての箔がつく」
ーー
『まじかよ』
『シスター関係か……w』
『それは利益としてもでかいな』
『配信のための諸経費はどうなんの?』
ーー
「パソコン、マイク、その他の配信で必要なものは全部出すぞ。年齢不問。未成年者は応募の際に保護者の承認を得てくれ。配信が終わった時に概要欄に応募フォームを貼る」
なんか企業って感じの宣伝で結構興奮している俺がいる。浮足立っているとも言うが、何か不備があった場合は台詞を用意してくれたコロンにジト目で睨まれるからしっかりとこなさなければならない。
正直、志さえあれば小学生でも高齢者でも採用するつもりだ。過去の経歴も何も、そんなものは過去でしかない。これからの未来を変える者をそんな些事なことで決めつけることは絶対無い。
ーー
『不安しかないけど少し気になる』
『さんじかいの下部組織なら……応募してみようかねぇ』
『副業としてはありなん?』
ーー
「そっちの会社がオッケーならこっちは何も文句は無いぞ。副業も構わん。ただし月三回以上の配信は義務とさせてもらう」
さすがに体調とか精神的な問題とかなく、仕事で半年ほど配信を休むとかはファンにも会社にも迷惑が被るため、月毎、決まった配信回数はこなしてもらう。
「でも、受験生とかそういうやむを得ない場合はリアル優先だから配慮するけどな。配信にかまけて志望校に落ちましたぁ! とか洒落にならねぇ」
ーー
『そこの配慮はするのかw』
『学生に優しいw』
『受かるか分かんねぇけど応募してみるか』
『結構乗り気な人多いなw』
ーー
俺個人じゃこうもいくまい。
ツンデレな奴らの牙城を崩すには、体裁が必要なのだ。今回は『さんじかい』という組織のネームバリューを利用することで意識を『まあ、大組織の下部っつーなら応募してもいいかな』という風に誘導した。
ふっ、これが頭を使うってことよ。
……全部コロンが考えたんですけどね!!
役立たずとは俺のこと!! 足手まといとも言う。
「てなわけで、一期生を今月いっぱい募集するから頼むぜ。書類審査、面接、そして契約。一期生の登場は4ヶ月後を予定してる」
ーー
『結構タイトなスケジュールだな……』
『有能スギィ!』
『黒樹だし大丈夫か』
ーー
「そんじゃバイバイ」
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