第4話 クラフトゲーム配信

「んなっ! ……朝起きたら登録者数めっちゃ増えてる」


 昨日は疲れたなぁ、と思いつつスマホを開くと、大量の通知が現れた。何事かとyoitubeの管理画面を見ると、登録者が400人ほど増えて537人になっていた。え、炎上した? それくらいしか思いつかないんだけど!


「Tnitterは……フォロワー796人!?」


 本当に何があったんだよ。怖い、怖い。増えるのは嬉しいけど、その過程だよな。炎上して増えるのは微塵も嬉しくないし、俺のガラスメンタルが粉々に砕け散ることは確定している。配信者にアンチは憑き物だって分かってるんだけどねぇ……面と向かって言われるより文字で突き付けられた方が精神にクる。


「えーと……。あぁ、なるほど。炎上ではないのか。絵師がファンアート描いてバズったのね。もしかして昨日、久しぶりに描いてみるかぁ、って言った人か? なんでそんな有名な人が俺の配信見てるんだよ。仕事しろよ」


 やっべ、自虐。

 仕事しろよは今の俺に一番効く。仕事してぇよぉ!!


「ありがたいけど……緊張するわ……。あれだろ? 五百人って俺が通ってた中学の全校生徒くらいだな。壇上でスピーチするのと変わらねぇじゃん、キッツ」


 吐きそ。


「急に増えないで、頼むから。俺が慣れるのを待って増えてくれ」


 そんな操作ができれば苦労はしないよな。公開市場操作ならぬ、公開登録操作的な。


「一応、一週間のタイムスケジュールは組んでるから大丈夫だけど、飽きられないようにしなくては」

  

 生配信。

 それは短く編集して纏まった動画よりも、見る難易度が桁違いに上がるものだ。生視聴は当然として、後から一時間以上の配信を見るか、と言われればそのハードルは計り知れない。

 ゆえに、如何に視聴者を離れさせないか。それが配信に必要なものだ。トーク力だとか、ゲームの腕だとか。


「まあ、工夫はするけど、それで自分の持ち味消してちゃ意味ないか。皮被ってるわけだし、持ち味という意味じゃあ消えてるけども」


 キャラがブレる。どうにか小悪魔イケメンに定着させたいが、ふいの出来事があったら素が出る。

 めっちゃ下ネタ話したい。




☆☆☆



「はい、どうも! こんばんは! 悪魔目指して頑張っている、新人小悪魔の黒樹ハルです。下僕のみんな! 元気してる!?」


 アバターを映し出すと、次々にコメントが表示された。

 うぉ、同接300人……早すぎる……。噛みそう。


ーー

『待ってた!』

『こんハル!!』

『床舐めて待ってた!!』

『全裸待機!!』

ーー


「床は舐めたらダメだよー。いっぱい菌が付いてるからね。全裸待機の下僕は服を着ようね。風邪引く」


ーー

『優しい』

『や さ し い せ か い』

『悪魔のくせに優しい』

ーー


「えっと……じゃあ床に這い蹲って足舐めろ」


ーー

『落差www』

『ひでぇw』

『ちょっと舐めたいと思ってしまった件』

ーー


 変態いて草。

 というかこういう掛け合いがなかなか楽しい。配信の醍醐味だな。

 ……っと、話が逸れ過ぎるのもあれだな。


「はい! じゃあ、今回はゲームをやっていきたいと思います! 話には聞いたことがあったけどやったことは無いんだよねぇ。……これ!」


 バンッ! と配信画面にゲームのタイトルを表示させた。

 タイトルは『クラフト・イズ・ミー』。

 世界全てが四角いブロックで出来ていて、冒険したり家など様々なものを作ることができる自由度の高いゲーム。

 前の世界でも配信者がプレイしているのは見ていたけど、やったことはなかった。


ーー

『おー、ミークラか』

『定番だけど面白いよね』

『良いじゃん!センスが問われるけど』

ーー


「センスはねー、知らん!」


ーー

『投げやりw』

『まあ、変なの作ってもフォローしてあげるから』

『すごい前衛的で独創的ですねってwww』

ーー


「前衛的で独創的って、すっごいバカにしてるでしょ。生憎と俺はこういうゲーム得意なんだよね。かつもくせよ!」


ーー

『ちょっと悪魔っぽい』

『偉そうな感じがね』

ーー

 

 ……そうなの?

 下僕の基準が分からねぇ。


 さて、やっていこう!!


「レッツ、スタートッ!!」


 スタートをタップすると、早速ゲーム世界に飛ばされる。

 

「ほうほう、森スタートだね。ここは木を採取して家を創ってみようか」


ーー

『素手で木は取れんよ』

ーー


「えっ、素手で木、取れないの!? いや、まあ現実に即して考えてみれば当然だよね」


ーー

『嘘だよ』

『騙されてるwww』

ーー


「はー? 嘘? 悪魔に嘘ついた? 天罰食らわせるよ?」


ーー

『悪魔なのに天罰で草』

『堕天出身かよ』

ーー


 確かに。

 悪魔の罰でなんだ? 悪罰? や、どっちかというと悪魔って唆す側だよな。そして騙す。あっ、俺の専売特許奪われたわ、ちくしょう!!


「とりあえず素手でホリホリ。……なかなか時間かかる。下僕の諸君、アドバイス求む」


 今度は騙すなよ。


ーー

『木で斧作るとええで。採取が楽になる』

『木でツルハシ作れ』

『木で剣作れ』

『木でクワ作れ』

ーー


「どれがどれ!! 騙す気満々な人何人かいるじゃん!」


 剣とか明らかに違うやんけ。クワは……農業じゃね? ツルハシは……なんだよ。


「作れ、以外にアドバイスをくれた斧の君を信じるよ。嘘だったら、大事な場面で滑舌が悪くなる呪いをかける」


ーー

『地味で嫌な罰だなおい』

『これは悪魔!実に悪魔であります!』

『元から滑舌悪いワイ、完全勝利』

ーー


「最初から滑舌悪い人は舌を噛む」


ーー

『抜かりないw』

ーー


「ほいっと、斧を作って……採取、採取!!」


 お、サクサク取れる!!


「すごいすごい! 取れるよ!」


ーー

『純朴な笑顔にワイの汚ねぇ心が浄化された』

『もう男じゃなくて良いからその笑顔見せて』

ーー


 なんか好評なんだが……?

 笑顔? 笑顔なんて安いもんだろ。


 ニコッ。


ーー

『胡散臭ぇ』

『一気にパチモン感が半端なくなった』

『返せぇ!純粋さを返せぇ!いつから染まってしまったんだぁ!』

ーー


 解せぬ。


「笑顔が好きみたいだから折角笑ったのに」 


 とか言いながらサクサク木を採取して、そこそこの量が溜まったのを確認して移動する。


「じゃあ移動していきまーす。何か作りたいよね、やっぱり。木だけで家を作るのは味気ないし。どこに建てたら良いか分からないなぁ」


 事前に調べるよりも、こうしてリスナーと会話しながら一緒に作っていった方が一体感が生まれる。

 何だかんだ取り返しのつかない嘘はつかれてないし、楽しいね!


ーー

『さっきの窪みあったじゃん。ちょっと洞窟みたいの。そこを真下に掘ってみ』

『あっw うん、そこ掘ってみ』

『そこ、立地いいぞーw』

ーー


「お、本当? 行ってみる!」


 下僕のアドバイスに従って、下に向かって広がる小空間に入り、真下に向かって掘る。


「硬いなぁ。ツルハシ作るね」


 錬成! へいっ!


「掘る掘る掘る掘る掘る!!!」



 よし! 見えた! 隙の糸!


「ここだ!! いっけぇぇ……あァァァァァ!!!!????」


 ノリと勢いで叫びながら掘っていたその時だった。


 俺は真っ逆さまに落ちて、真っ赤に煮え滾るマグマに着水ならぬ着火した。


 当然現れる『You die』の表示。


ーー

『予想通りwww』

『あぁぁ!!??は草』

『こんなに勢いよく落ちてった奴は初めてだw』

『草でしかない』

『www』

ーー


「げーぼーくぅぅ……」

 

 俺は騙されたのだと悟り低い声を出す。


ーー

『くっそイケボ』

『低音助かる』

『マジで男っぽいじゃん!!』

ーー


 そこで盛り上がらんでええねん!!

 許せん、許せんぞ。結構良いとこまで進んだのにぃ!


 というか、危ないな。危うく素が出るとこだった。


「よくも騙したな」


ーー

『騙される方が悪い』

『真実は時に残酷なのだよ、うん』

ーー


「どう考えても騙した方が悪いし、真実じゃなくて普通に虚偽じゃん。詐欺だ、詐欺」


ーー

『ざまぁwww』

『ふっw』

ーー


「ぐぬぬぬぬぬ……」


ーー

『屈したか……。所詮はオスガキよ……』

『お労しやお姉様……』

ーー


「急にネタをぶっ込むな」


 ノリが良いのはあれだが、おちょくられんのは許せんわ!



 そんな感じで騙される配信だった。




Result!!


同接749人

チャンネル登録者 628人(+508)

Tnitterフォロワー 899人(+663)

バズった絵のイイネ数 6039


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