第19話 お義母様と一緒に街を堪能しました

「今日はたくさん買い物をしましょうね。私、王都の街に来たのは本当に久しぶりなの。ずっと領地にいるでしょう?でも、領地もとってもいいところよ。今度遊びに来てね。うちの領地はね、温かい場所だから珍しい果物がたくさん取れるのよ。最近では、宝石だって取れるんだから。海もあるから、泳ぐことだってできるのよ」


「え、海で泳ぐのですか?」


今までほぼ毎日領地の勉強をして来たから、海がある事は知っていた。でも、まさか泳げるなんて知らなかったわ。


「そうよ、水にぬれても透けにくいワンピースを着て泳ぐの。とても気持ちいいわよ」


そういえば子供の頃、家族で旅行に行った時、一度海を見た事がある。大きくてとても綺麗だったわ。


「綺麗な魚もいっぱいいるわよ。そうそう、海の幸も美味しいの。魚を生で食べる事だってできるのよ」


「まあ、お魚を生でですか?」


生魚だなんて、なんだか想像が出来ないわね。王都では焼いたり煮たりして食べるのが一般的。そもそも、肉料理がメインの為、魚料理自体少ないのだ。


その後もお義母様は、領地での生活を色々と教えてくれた。やっぱり実際住んでいる人の話しはとても新鮮で、何よりお勉強では知り得なかった情報がたくさんある。


「大奥様、奥様はずっと領地の勉強をなされているのですよ。最近では旦那様も、奥様の影響で領地の勉強をされております」


「まあ、そうだったのね!既に領地に興味を持ってもらえているなんて、嬉しいわ。今度ぜひ遊びに来て!一緒に海に入りましょう」


そう言うと、それはそれは嬉しそうに笑ったお義母様。


「ありがとうございます。お義母様のお陰で、増々領地に興味がわきました。ぜひ、一度遊びに伺いたいですわ」


美しい海に綺麗な魚、考えただけでワクワクする。


そんな話をしている間に、街の中心街に着いた。


「さあ、今日は思う存分買い物をしましょう。行きましょう、マリアンヌちゃん」


私の手を取り馬車から降りると、早速目の前の高そうなお店に入って行った。


お店に入るや否や、すぐにマダムが飛んできた。


「まあ、ディファーソン元侯爵夫人、王都にいらしていたのですね。お久しぶりですわ」


「随分ご無沙汰しちゃってごめんなさい。今日はね、娘を連れて来たの」


「まあ、こちらにいらっしゃるお方が!お初にお目にかかります、ディファーソン侯爵夫人。この店のオーナーをしております、グランマと申します。どうぞこれからも、末永くよろしくお願いいたします」


「マリアンヌ・ディファーソンです。こちらこそ、よろしくお願いします」


なんだかこのマダム、やり手そうね。色々と買わされそうな気が…


そして、いざ買い物がスタート。


「ディファーソン元侯爵夫人、早速ですがこちらのドレスはいかがでしょう。夫人の瞳の色と同じ、赤い宝石をあしらっておりますの」


「まあ、素敵ね、頂くわ。赤と言えば、マリアンヌちゃんの美しい赤色の髪にも合いそうね。マリアンヌちゃんの分もお願いね」


「ありがとうございます」


えぇ~!!早速2着お買い上げですか。このドレス、かなり高価な品よね…それも私の分まで。

その後もマダムの口車に乗せられ、次々とドレスやワンピースを購入していくお義母様。チラリとクリスの方を見ると、涼しい顔をしているので、きっとこれが普通なのだろう。恐ろしや、侯爵家の経済力…


結局お義母様10着、私8着のお買い上げだ。もちろん、私の服はマダムとお義母様が選んでいた。上機嫌なマダムに見送られ、次に向かったお店は宝石店だ。


ここでも爆買いをするお義母様。色々な宝石を買ってもらった。


「そういえば、グリムから洋服や宝石をきちんと買ってもらっているの?ほら、あの子、そう言った事に疎いでしょう?」


「はい、必要な物は何でも買ってもらっています」


物欲がないため、特に何かを買ってもらった事はないが…そもそも、こんなに爆買いするなんて初めての経験だ。見ている分には新鮮だが、自分がしたいとは思わない。


「そう、それならいいのだけれど。とにかく、あなたはディファーソン侯爵家の妻なのだから、大きな顔をして買い物をしたらいいのよ。さあ、次は食事にしましょう」


お義母様に連れられてやって来たのは、これまた立派なレストランだ。ふと入り口のところにある、大きな水槽が目についた。水槽にたくさんの魚が泳いでいた。確か新鮮な魚を食べられる様に、生け簀があると領地の勉強の時に習ったわ。


「このお魚はね。うちの領地で捕れたものを、生きたまま王都まで運んできているのよ。せっかくだから、領地の魚料理をマリアンヌちゃんにも食べてほしいと思って、このお店に連れて来たの」


「まあ、領地で捕れたお魚なのですか。それは楽しみですわ」


早速奥の個室へと案内された。そして、次々と出てくる魚料理。


「これはお刺身よ、こっちがフライ、それから、こっちが魚のソテーとマリネよ」


魚料理を色々と教えてくれるお義母様。早速頂く事にした。


「お義母様、このお魚料理、とても美味しいです!特にお刺身と呼ばれるもの、初めて食べましたが、こんなに美味しい魚、初めて食べました」


こんなにも魚が美味しいなんて、知らなかった。つい夢中で食べ進めていく。デザートは、これまた領地で栽培された、マンゴーと呼ばれるフルーツだ。これも甘くてとても美味しかった。


「こんなに美味しいお魚料理があるなんて、知りませんでしたわ。それに、果物も。もっと王都に普及すればいいのに…」


「そうね。でも、領地から王都までは、馬車で1週間かかるから、中々普及しないの。それでも、随分と侯爵領の食べ物が、王都でも食べられる様になってきたのよ」


「そうなのですね。私、今まで領地の勉強をして知ったつもりでいましたが、今日お義母様と一緒に過ごして、まだまだ領地の事が分かっていませんでした。もっと頑張らないと…」


「あら、あなたは十分頑張っていると思うわよ。それに、私の話しも興味深く聞いてくれるし。令嬢の中には、ドレスや宝石、殿方の話し以外興味がない子も多いのよ」


そう言って笑ったお義母様。十分頑張っているか…なんだか、今までの自分の頑張りが認められたことが、嬉しかった。


食後も買い物を楽しんだ後、侯爵家に帰る為、馬車に乗り込んだ。


「お義母様、今日は街に誘っていただき、ありがとうございました。とても楽しかったです」


「私の方こそ、付き合ってくれてありがとう。マリアンヌちゃん、グリムと結婚してくれて、ありがとう。あなたの様な娘が出来た事、本当に嬉しいわ」


そう言ってお義母様が笑った。


「私も、お義母様の様な方が出来て嬉しいです」


会うまでは正直不安だったが、お義母様はとてもいい人だ。お義母様となら、きっと今後もいい関係が築いていける、そう確信した。


その後屋敷に着くまで、女2人、話しに花を咲かせたのであった。

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