第17話 私たちの将来は…

「グリムが令嬢と手を繋いでいるなんて、なんだか新鮮ね」


屋敷に向かって歩いていると、急にそんな事を言い出したお義母様。そういえば私たち、今手を繋いでいるわ。


「す…すまない。急に手を繋いでしまって…」


お義母様の言葉を聞いた旦那様が、慌てて手を離してしまった。そういえば、さっきから自然に手を繋いでくれていた。なんだか急に手から温もりが消えた事が寂しくて、無意識に旦那様の手を握った。


「あの…旦那様が嫌でなければ、このまま手を繋いでいてもいいですか?」


旦那様のご両親もいるのに、私ったら何を言っているのかしら?でも、どうしてもこのまま手を繋いでいたかったのだ。


「君が望むなら…」


旦那様が小さな声で呟くと、私の手をしっかり握り再び歩き始めた。


「あらぁ~。グリム、耳まで真っ赤よ。ウブね」


お義母様がクスクス笑っている。確かに旦那様は耳まで真っ赤だ。


「母上、少し黙っていてくれ!」


お義母様を怒鳴りつけると、そのまま私の手を引き、速足で屋敷に戻ってきた。きっとお義母様にからかわれて、とても恥ずかしかったのだろう。でも、手だけはしっかりと握っていてくれた。それがなんだか嬉しくて、つい頬を緩めてしまう。


屋敷に戻ると、すぐに近くに控えていたメイドに


「両親を今すぐ部屋に案内してやってくれ」


そう言い残すと、そのまま私を部屋へと送ってくれた。でも、せっかくご両親が来てくれたのに、このまま部屋に戻って来てよかったのかしら?そう思っていると


「母上が本当にすまない。あの人は昔から、言いたい事をズケズケ言うタイプで、何も考えていないんだよ。そのせいで、君を傷つけてしまった。もうあの人の相手をしなくてもいいから」


そう言って頭を下げる旦那様。


「旦那様、頭を上げて下さい。確かにお義母様は、言いたい事をはっきりと言うタイプの様ですが、私の事も認めて下さっている様ですし、出来れば仲良くなりたいと考えております。ですから、どうか私にも、ご両親のおもてなしをさせて下さい」


最初は驚いたけれど、何となく悪い人ではない気がした。それに、旦那様の大切なご両親だ。出来る限り仲良くしたい。


「君は本当に優しいね。でも、少しでも嫌な気持ちになったら、遠慮なく俺に言ってほしい。この家の主は俺と君だ。君に嫌な思いをさせる奴は、たとえ親でも置いておくつもりはない」


この家の主か…旦那様の口からそう言ってもらえると、やはり嬉しいもの。それでも、ご両親は大切にして欲しい。


「ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですわ。まずはこのお花を飾りに行きましょう。せっかく摘んできましたので」


私と旦那様の腕には、先ほど摘んできたカーネーションとダリアが。


「そうだな、早く花瓶に入れてやらないとな」


再び旦那様と手を繋ぐと、メイドに花瓶を持ってきてもらい、それぞれ居間と食堂に飾った。こうやって旦那様と一緒に、何かできるってやっぱりいいわね。


その後は、ご両親と一緒に晩餐を頂いた。カリーナの言う通り、旦那様のお父様は本当に無口で、一言も話さない。怒っているのかと最初は不安だったが、お義母様が


「あの人、いっつも何にも話さないのよ。本当につまらない人でしょう。でも、今日はかなりご機嫌なのよ。やっぱりマリアンヌちゃんに会えたからかしら」


と、教えてくれた。どうやら今日はご機嫌な様だ。逆にお義母様は、ずっと話をしていた。旦那様の子供の頃の話しを色々としてくれた。予想通り、旦那様は昔から真面目で努力家だったらしい。


「この子、本当に真面目だけが取り柄でしょう。目つきは悪いけれど、侯爵家の嫡男だし、騎士団の期待の星何て言われていたこともあって、何人かの令嬢が寄ってきたこともあるのよ。でもこの子、皆断っちゃって。もしかしたら、異性には興味がないのかと思っていたの。でも、マリアンヌちゃんが来てくれてよかったわ。私に早く、可愛い孫の顔を見せてね」


なんて言われた。孫か…初夜すらスルーされた私に、孫の顔を見せてあげる事が出来るのかしら…。私がそんな事を考えている間に、隣では旦那様とお義母様の喧嘩が始まった。


「おい、母上、黙って聞いていれば好き勝手言いやがって!」


「あら、結婚したのだから、孫を望んで何が悪いのよ。あなたはディファーソン侯爵家の当主なのよ!」


「別に子供が出来なければ、養子をとってもいい。そもそも俺は、養子を取ろうと思っていたんだ」


「え…養子を取るのですか?」


まさか養子を取るなんて考えていなくて、つい聞き返してしまった。やっぱり旦那様は、私との子供を望んではいないのかしら?


「イヤ…その…俺は別に、俺の直系でなくてもいいと言う意味で…別に君との子供が欲しくないとか、そういう訳では…」


「ほら、あなたが養子を取るなんていうから、マリアンヌちゃんが心配しているじゃない。そもそも、子供が出来なければそういう事を考えればいいでしょう。それなのに、結婚したばかりで養子を取るなんて言われたら、マリアンヌちゃんだって傷つくわよ」


確かに旦那様との子供は欲しい。でも、結婚してもらえただけでも大満足だ。そもそも旦那様は、私とそういった事をするつもりはないのかもしれない。もしそうなら、養子を取ると言う旦那様の気持ちを尊重したいと思っている。そんな思いから


「あの…私は別に…」


大丈夫です!と言おうとしたのだが…


「すまない、君を傷つけるつもりはなかったんだ。君が望むなら、俺は君との子供が欲しいと思っている!」


なぜか真剣な表情でそう訴えられた。それって、つまり…


なんだか急に恥ずかしくなって、俯いてしまう。


「すまない、そういう意味ではなくて…その…」


旦那様も真っ赤な顔をしてアタフタしている。


「23歳にもなって、何をアタフタしているのよ。だらしないわね。それでも騎士団長なの。情けないったらありゃしないわ。マリアンヌちゃん、ごめんなさいね。こんな息子で…」


なぜかお義母様が謝っていた。


旦那様との子供か…

正直まだ私たちは夫婦らしいことをしていない。だから、子供の事なんて考えた事もなかった。でも…


ディファーソン侯爵家の事を考えると、将来の事を真剣に考えて行かないといけない、そう実感したのだった。

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