第2話 嫁ぐための準備を始めます
翌日、早速友人たちを家に招待した。
「マリアンヌ、どうしたの?急に呼び出して」
少し心配そうに尋ねて来たのは、アナスタシアだ。その隣には、シャリー、私の隣にはルアンナが同じく不安そうにこちらを見ていた。3人は私の大切な親友で、皆伯爵令嬢。
「実はね、私。結婚する事になったの」
「えぇ!それ本当?まさか、バカダニエルじゃないわよね!!」
なぜかシャリーがものすごい勢いで迫って来たのだ。他の2人も立ち上がっている。
「なぜそこでダニエルの名前が出るのよ。彼は皆の前で、私との婚約破棄を宣言した人よ。この国が滅んでも、そんな事はないわ」
「そう、それなら良かったわ。それで、相手は誰なの?」
「それがね。グリム・ディファーソン侯爵様よ」
「「「えぇぇぇぇ!」」」
3人が一斉に叫んでいる。そんなに驚かなくても…
「よかったわね。あなた、なぜかディファーソン侯爵の事好きだもの」
「でも、あの人女嫌いでしょう?大丈夫なの?」
「まあ、正直バカダニエル以外だったら誰でもいいと思っていたけれど…」
なぜかダニエルの名前が頻繁に出てくるのだけれど…なぜだろう…
そういえば、ダニエルの婚約破棄宣言後すぐに婚約を破棄したのだけれど、それ以来なぜかこの子達、頻繁にダニエルに何かされていないか言ってくる様になったのよね。
よく考えてみれば、婚約破棄をしてからしばらくたって、ダニエルが私に謝りたいと家に訪ねて来たことがあった。さすがに会いたくなくて、自分も悪かったから謝罪は不要と伝えてもらって、会わずに帰ってもらった事があった。
その事が関係しているのかしら?て、もうダニエルの事はどうでもいいわよね。
「確かにグリム様は厳しい人と聞いているけれど、優しいところもあるのよ。ほら、前にも話したでしょう?あの日私にハンカチを渡してくれたのよ。まだあのハンカチ、返せれていないんだけれどね」
「その話しは聞いたけれど…とにかく、何かあったらすぐに私たちに相談するのよ。いい、わかったわね?」
「ありがとう、皆。もちろんそうさせてもらうわ」
相変わらず頼もしい友達たちに囲まれて、私は幸せね。彼女たちとはこれからもずっと繋がっていたい、素直にそう思った。
その後はいつも通り、女4人で話しに花を咲かせた。
「それじゃあ、私たちはそろそろ帰るわね」
「今日は来てくれてありがとう。また会いましょうね」
友人たちを見送ると、すぐにお父様に呼び出された。
「マリアンヌ、急に呼び出してすまない。先方と話し合った結果、明日嫁ぐことになった。今日中に荷物をまとめてくれ」
「えっ!明日ですか?いくら何でも、急すぎませんか?」
「色々と大人の事情があるんだ。とにかく、もう決まった事だから。さあ、今日は家族4人で食べる最後の夕食だ。母さんとグラディスも待っているだろう。行こうか」
もうこの話しは終わりだと言わんばかりに、さっさと席を立ったお父様。仕方ない、私もお父様の後に続いて、食堂に向かった。
食堂に向かうと、お母様と弟のグラディスが既に席についていた。急いで席に着き、夕食スタートだ。
「マリアンヌ、お父様から話を聞いたわ。あなた、明日グリム・ディファーソン侯爵様に嫁ぐのでしょう?こんなに急に娘を嫁がせることになるなんてね…大丈夫なの?あの人はとても厳しくて、女性にも優しくないと聞いたわ…」
「姉さん、嫌なら別に嫁がなくてもいいんだよ。僕が姉さんを守るから」
お母様とグラディスが、心配そうに話しかけて来た。
「ありがとう、2人とも。でも、大丈夫よ。私はもう嫁ぐと決めたのだから」
そもそも私は、グリム様をお慕いしている。確かに見た目は少し怖いけれど、きっと悪い人じゃない。1年前のあの日、私に話しかけてきてくれた彼は、とても優しかったから。
「それならいいのよ。まぁ、ダニエル様よりかはマシよね…」
なぜかお母様の口からも、ダニエルの名前が…
なぜそんなに皆、ダニエルにこだわるのかしら?まあいいわ。
家族で食事を終えた後、部屋に戻りメイドに手伝ってもらいながら荷造りをした。ゆっくりゆっくり荷物を詰めていく。
そうだわ、グリム様からお借りしたハンカチも返さないとね。引き出しにしまってあったハンカチを取り出した。青色のシンプルなハンカチだ。
ずっと返そうと思っていたが、どうしても返せずにいた。やっとこれを返せるのね。このハンカチと共に、きちんとグリム様にお礼を言わないと。
そっとハンカチをカバンに入れた。
よし、荷造りは済んだわ。明日はいよいよ嫁ぐ日。正直まだ心の準備も何もできていないが、まあ、なんとかなるだろう。
布団に潜り込み、ゆっくりと目を閉じた。明日からの新しい暮らしを夢見ながら。
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