第4話【突然胸を押しつけてくる魔王様に、キスしようと迫ったらどうする?】
「急にこんなところに連れてきて――いったいどうしたというのじゃ?」
困惑する彼女と一緒に入った場所は、プリクラ機の撮影ブースの中。
外の状況が落ち着くまで、しばらくここで身を隠すことに決めたのだが。
「......まさか、突然わらわとここで”したくなった”のか!? ダメじゃぞ! まだ一度もしたことがないうえに、お前との初めてがこんなわけのわからぬ小屋でなぞ......わらわにも心の準備というものが」
顔を真っ赤にさせ、口元を両手で押さえつつ瞳は興奮して潤んでいる。
魔王様は、とても妄想癖がお強いようで。
まぁ完全な密室ではないにしても、二人が入るにはそこまで狭くも広くもない謎の場所に連れて来られれば、あらぬ考えを想像するのも無理はない。
一人悶々としている彼女に、俺はできるだけ冷静に説明をした。
「......そういう魂胆か。ならば最初からそうわらわに伝えるがよい。危うく『黒』で挑むことになったと思い、焦ってしまったではないか」
胸元に手を当て、ほっとしたように大きくため息を吐いた。
別に勝負パンツじゃなくても問題はないんだけど。
というか、下着の色が赤でも黒でも彼女が魅力的であることは変わりはない――って、俺は心の中で何を言ってるんだ?
「にしても、ここはどんな遊びを提供する場所なのじゃ? 見たところ、大きな『もにたー』の前に筆らしきものが置いてあるが」
興味深くブースの中を見回す彼女に、せっかくだから一緒に撮ってみようと提案する。
「なるほど、『すまほ』の『かめら』とやらと同じ原理か。面白そうじゃのう」
彼女の好奇心を刺激したらしく、俺の誘いにのってくれた。
二人でモニターの前までいき、お金を入れてスタートボタンを押す。
まずは写真を撮るわけだが、どちらかといえば陰キャよりの青春時代を過ごしたため、このような場合どういうポーズをとればいいか真剣に悩む。
彼女は魔王だけあって、きっと魔王らしい威厳と貫禄のあるポーズをとるに違いない。
なんてことを予想する俺の腕に『むにゅ』と、ふくよかな柔らかい感触。
「――人間のオスは、こうされるのも喜ぶのじゃろう? 今のわらわができる、精一杯の感謝の気持ちじゃ。受け取るがよい」
腕に密着する上目遣いの彼女に、魔王というより小悪魔性を感じつつ、胸の鼓動が大きく高鳴る。
「それにこれは、今日わらわを散々からかった酬いでもある。少しはお前もドキっとしてくれぬと、不公平ではないか......」
『ぎゅう』と身を寄せ、更に胸を押し当て距離を縮める彼女の心音が、これでもかと俺の体内に伝わってくる。
可愛いくて、たまらず頭を撫でながら彼女をじっと見つめる。
「......わらわを子供扱いするでない、この大バカもの」
言っているセリフと真逆の、安堵に満ちた表情を向けられると、こちらの理性が飛びそうになっていろいろとヤバイ。
お互い惹かれ合うように、自然と二人の顔の距離が近づいた――その時だった。
カシャッ!
「――へ?」
どうやら制限時間を過ぎてしまい、自動的にシャッターを切られた模様。
そしてモニターには、俺と彼女がいい雰囲気で口づけを交わそうとしている瞬間が映し出される。
「ななななななんてものを映し出すのじゃ! この機械仕掛けのモンスターは!」
慌ててモニターの前で隠すように立ちふさがるが、もうデータとして残ってしまっているので無意味なことを、彼女は知らない。
その後、残り三回分は無難に二人並んでの、お互い照れ笑いを浮かべながらのピースサインで撮影は終了。
「お前もわらわ同様魔族にしてくれるわ」
ラクガキモードに入るなり彼女は俺の画像に角やら牙なんかを書き足す。
なんか小学校の教科書に載っている偉人になった気分だ。
「これは......うん、そのままにしておこう」
あまり触れないようにしているのか、最初に撮った写真はラクガキはせずスルーし、こうして全ての課程が終了した。
取り出し口からプリクラを受け取り彼女に手渡せば、子供のように目を輝かせて喜んでいる。
「少々トラブルもあったが......この写真、わらわの一生の宝物にするぞ」
頬を赤くし、彼女ははにかみながら気持ちを伝えてきた。
こんなトラブルが起こるのなら、毎週彼女をショッピングモールに連れて行くのもいいかも?
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