第2話 家族の予感と嵐の予感

 後日、マリアンヌ様のお部屋にお邪魔してティータイムを楽しんでいた時、コンコンとノックの音がして、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた犬男が入ってきたのにゃ。

 白い服には絵の具がたくさん飛んでいる。

 きっと画家犬族にゃね。毎年コンテストで優勝をかっさらうと評判なのにゃ。

 ダックス村のたれ耳があざとくて嫌いなタイプにゃ。


「すみません、ご家族の画を描く前に、普段の王妃様を見たかったワン」


「私の部屋へようこそ」


 マリアンヌ様が歓迎の曲を歌うと、透明な空気が鮮やかに色付くのを感じたにゃ。上手いだけでなく、心から楽しんで歌っているからこそ、聞いていて気分が高揚するのにゃ。

 犬っころは白々しい拍手をしてるにゃ。


「お見事ワン。本番が楽しみワン」


 犬っころは頭を下げて帰っていった、もう来るにゃ、あたしとマリアンヌ様の邪魔をするにゃ。


「肖像画を描くのですにゃね」


「ええ、そうなの。やっとレッドも大人しく座っていられるようになったものだから。

 そうだ、ミーニャも一緒に描いてもらわない?」


「家族の肖像画に、あたしをっ!?」


「ふふ、だってレッドの許嫁でしょう?」


「にゃっ!?」


 びっくりしてティーカップを割ってしまったにゃ。

 あああ、せっかくマリアンヌ様があたしの為に買ってくれた猫柄のカップがああ!!

 あたしはその場で土下座した。


「ごめんなさいですにゃあああ!」


「あらあら、頭を上げてちょうだい。驚かせてごめんなさいね。でも大丈夫よ。

 ジャジャーン。もう一個買ってあるの!」


 割れた音を聞きつけた王妃専属メイドがドアを叩く。あたしは背中にイヤな汗をかいた。

 王妃様の私物を壊すのは罪。あたしは処罰されてしまう。


 マリアンヌ様は、カップを落として靴で踏み砕くと、ささっと土に埋めてしまった。「証拠隠滅よ」と笑いながら。

 入ってきたメイドには笑顔で誤魔化した。

 マリアンヌ様はあたしに向かってペロリと舌を出す。

 優しくて美しい理想の王妃様にゃ。


「あ、ありがとうございますにゃ」


「ミーニャは魔界で出来た初めてのお友達だもの。優しくて可愛くて頼もしい猫のお医者様なら、レッドを任せても安心だわ」


 嵐でも晴天に変えてしまいそうなキラキラした笑顔に、見惚れてしまった。

 ああ……奇跡のような美しさにゃあ。


 ずっとずっと、今のままで居て欲しいにゃあ。



 その時、帰ったはずの王妃専属メイドが真っ青な顔をして飛び込んできた。肩で息をして、汗だくにゃ。

 イヤな予感が肌をザワザワと走っていく。


「どうしたの、リリィ!」


「レッド様が、お部屋のベランダから落ちて意識不明の重体です!」

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