ディビジョン

しんぴん

第1話 春休み

 ①先進国、②発展途上国、③途上国から先進国になった国、④先進国から発展途上国になった国。90年以上前の経済学者が言うには世界にはこの4種類の国があるらしい。①はアメリカやイギリス、フランスなどの第二次大戦前のいわゆる欧米列強、②は当時、独立が相次いでいたアフリカやアジアの旧植民地諸国、③は当時、第二次大戦後の廃墟から高度経済成長を遂げていた日本、そして④は広大なバンパと呼ばれる草原地帯を持ち、農業や牧畜が盛んに行われ、穀物の輸出や牛肉の輸出で、20世紀初頭には一人当たりのGDPがドイツやイタリアと同規模であったアルゼンチンである。

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 子供がいる家庭というのが贅沢なものになったのはいつからなんだろうな。僕が東京の私立大学に進学が決まったと伝えた時、祖父がふとつぶやいた言葉だ。令和が終わって10年以上経ってから生まれた僕は考えたこともなかった。過疎化が進む離島や山間部の集落とは違い、実家の最寄り駅に新幹線が停まり、東京までの新幹線通勤が珍しくない地元の、通っていた公立小学校も各学年2クラス、40人ほどおり、全校でも240人ほどいたのであまり感じることはなかった。僕には兄弟はいないが、よくつるんでいる友達にも兄弟はいなかったし、クラスの中でも兄弟姉妹がいるのは2、3人、3人兄弟ともなれば、学年に1人いるかいないかだった。


 大学2年生の秋セメスターの最終講義が終わり、無事に進級に必要な規定単位数を満たしたと確信したため、僕は久々に地元に帰ることにした。地元に帰るのは2年ぶりだ。前回の帰省は1年の5月の大型連休だった。昨年はアルバイトに勤しんでいたので戻るつもりもなかった。聞いてはいたが東京は地元に比べて物価を含め、あらゆるモノの値段が高かった。成人した大学生として、人生の夏休みを満喫するためには金銭が必要であった。そのため、大学の講義がない時や長期休みの間は自由謳歌資金稼ぎをしていた。僕の実家は決して貧しい訳ではなかったが、飛び抜けて裕福でもなかった。ただ、東京に来るまでは中の上か上の下くらいかなと漠然と感じていた。東京の私立大学に入ってみて初めて自分の家が、ザ・中流家庭だと思い知った。いや、もしかしたら、中の下くらいかもしれない、とも思うくらい周りの人間の家庭は裕福だった。1人暮らしをするために親からマンションの一部屋を買い与えられた奴や、車を持っておりその車の駐車場のために親が近くのコインパーキングを丸ごと買って、そこの収益を運用している奴など裕福エピソードには事欠かなかった。そんな環境の人間と合わせるためにはやはりそれなりの資金が必要であったのでアルバイトに励んだ。

 しかし、今はその必要がなくなった。なくなったといっても、自ら選んだわけではない。掛け持ちしていた3つのバイト先が3つとも潰れたのだ。1つは新聞配達、あとの2つは住んでいるアパート近くのデパートにある飲食店の夜間シフトだ。まあ、家賃が払えないとか、学費が払えないのような喫緊の話でもなかったので、親に顔を見せるという孝行、と言う体で生活費を抑えるためにこの春休みは実家に帰ろうと決めた。

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