(10)


 教室に戻った私は、目を疑った。神堂が伊原の前の席に腰掛け、親しげに話しているからだ。さっき神堂が言っていた、たった一人の友達というのが、まさか伊原のことだとは思わなかった。


 二人の様子をまじまじと見つめていると、伊原がこちらに気付き、小さく手招きした。そして、神堂に私を"友達"だと紹介した。



「げっ、さっきの失礼な奴……」


 神堂は不愉快そうにこちらを見た。


「先程はすみませんでした……」

「別にもういいけど、けいくん、彼女はホントに君の友達なの?」


 警戒する様子の神堂を見て、私は内心ハラハラしていた。神堂は別のクラスだから、多香子たちとの接点はないはずだ。罰ゲームのことは知る由も無いだろう。けれど、彼の目は何もかも見透かしているような気がした。



「友達だよ」


 伊原は昼食のパンを頬張りながら答えた。


「ふーん……何を企んでるのか知らないけど、蛍くんを傷付けたら許さないから」

「いや、大丈夫だよ」


 神堂を嗜めるようにそう返す伊原に、胸がズキズキと痛んだ。



「あー、そろそろ教室戻らなきゃ」


 神堂が名残惜しそうに立ち上がった。


「そっちのクラス、担任タナせんだっけ?」

「そうそう、もう嫌んなるよ」


 タナ先……? 聞き慣れない単語を聞き返すと、伊原は「俺らの一年のときの担任。スゲー怖いんだよな」と言い、神堂と顔を見合わせて笑った。その笑顔に、なんだか胸が締め付けられた。



 たまたま、このクラスに馴染めなかっただけで、伊原にはちゃんと友達がいるんだ。伊原は、普通の男の子だ。バイトして、家では妹の面倒を見て、テストの点は普通に悪い。みんなが好きな音楽を聴いて、みんなが好きな漫画を読む。


 どこにでもいる普通の男の子だった。運悪く、罰ゲームのターゲットにされるまでは。

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