(4)


 いつしか、休憩時間を心待ちにしている自分がいることに気付いた。それと同時に、伊原を騙し続けている罪悪感が膨らんでいくのを感じていた。


 だけど、私の進捗報告を上機嫌で聞く多香子を見て、その感情に蓋をした。グループに居座り続けるには、このゲームを続けなければならない。私が彼女に提供できる唯一の娯楽は、これだけなのだ。



✳︎✳︎✳︎


「夏休み、伊原は予備校とか行くの?」


 気怠そうに団扇を仰ぐ伊原に尋ねた。長い前髪が風に煽られ、切長の目が見え隠れする。



「俺、高校卒業したら働くんだ。将来、妹には大学に行ってほしいからね」

「え! 伊原、妹いたの?」

「うん。母さんと小学生の妹と三人暮らし」


 授業が始まるからと呼びに来てくれたり、意外と聞き上手だったり、世話焼きな一面が垣間見えるのは妹がいるからなのか。妙に納得した。



「そうなんだ……伊原はえらいね。私はなんの目的もなく進学しようと思ってるよ。学生でいられる期間を少しでも延長したいとか、そんな理由で」


「でも、受験勉強頑張ってるだろ。十分立派だよ。目的は大学で見つかるんじゃない?」



 これまで伊原と一緒にいて、分かったこと。彼は絶対に私のことを否定しない。今まで人から軽んじられることばかりだった自分にとって、それはとても新鮮で、心がじんわりと温かくなった。


 伊原と友達になって、1ヶ月少しが経過していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る