(2)


 予想外に大きな声が出てしまい、恥ずかしくなる。咄嗟に多香子の様子を確認すると、こちらを見つめ、満足げな笑みを浮かべていた。


 伊原に対し、思わず素の自分が出てしまい焦ったが、どうやら多香子が求める"友達らしい立ち振る舞い"としては、それが正解のようだった。



「ていうか伊原、一人称"俺"なの?」

「なんだよ。俺みたいな見た目なら、"僕"の方がお似合いか?」

「もう! そんなこと言ってないでしょ!」


 仏頂面で同じ返しをする伊原に、思わず笑ってしまった。なんだろう、この胸が弾むような感覚は。少なくとも、多香子たちと居るときよりも、気を張らずにいられる自分に驚いた。


 任務遂行のためか、伊原への純粋な興味なのかは分からない。けれど、もっと彼のことを知りたい、話したいと思った。



 それから私たちは、休憩時間の度に言葉を交わすようになった。最初は面倒臭そうな顔をしていた伊原も、徐々に机に突っ伏さずに待っていてくれるようになった。



 伊原、猫より犬派なの?

 伊原、ご飯よりパン派なの?

 伊原、理系じゃなくて文系なの?


 伊原は私からの一方的な質問に素っ気なく答えるだけだったけど、それがなぜか心地よかった。

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