閑話 十日市先輩ってムズい
チーター男子高校生がオカルト部を訪れる、少し前のお話。
「こんちゃーす!」
「あ、本加ちゃん。こんにちは」
オカルト部のドアを開ければそこにいる、この世界の誰よりも可愛い自慢の先輩・十日市藤花。
自分の荷物をさっと部屋の隅へ置き、私は十日市先輩の隣の席に座る。
……いやー、今日も綺麗な横顔ですねぇ……。ぱっちりお目目に白く滑らかな肌、思わず吸い付きたくなるような桜色の唇。私、女だけど。
と、私の視線に気づいた先輩がこちらを向き、鮮やかな桃色の瞳と目が合う。
「? どうしたの?」
「え、あーいや、先輩の横顔が綺麗すぎて本でも書けそうだなと」
「ふふっ、タイトルは?」
「『我が藤花』」
「ちょっと全体主義の香りがするけど……」
「大丈夫、『我が闘争』よりぜーったい売れます!」
「ええぇ……」
こんな微妙な苦笑いも、十日市先輩がすると絵になるから不思議だ。
「それよりさ、今日は何する? ……そうだ、ジェイソン見ない? ジェイソン見ようよジェイソン」
「先輩、それよりも大事なk」
「ジェイソン見よ見よっ♪ ジェイソンジェイソン。えっと、次は確かパート5……」
「先輩っ! それよりも大事なことあるでしょっ!」
ぽかんと目を丸くする先輩もこの上なく可愛いが、これだけは言っておかなくては。
「新入部員ですよ新入部員! ジェイソンじゃなくて新入部員! ジェイソンよりも新入部員!」
この六月の時点で部員が四人以上いない部活は部として認められず、にっくき生徒会の手によって消されてしまう。
オカルト部の部員は私と十日市先輩の二人。よって今、この部活は消滅の危機にある。
だというのにこの部長は……!
「……え? ジェイソンは? 本加ちゃんジェイソン見ないの!?」
「見ま!せん! 部員を増やす方法を考えるんです!」
というか、何でそんなにジェイソン見たがるの? JKが見る映画じゃないよ?
ジェイソンを見たがるnotイマドキJKは、机の上に腕枕を組みだらしない流し目でぐでーっとこちらを見ている。……あー、後ろから抱き着きたい。
「ええぇ~? だってぇ、もう誰も入ってくれないし、私は本加ちゃんと二人きりでもいいし……」
「〰〰〰〰ッ結婚しましょう! ……じゃなくて、部活自体が無くなっちゃうんですよ! そんなのダメでしょ!」
「だってぇ……」
「だって? でも? 聞き飽きましたよ! ジェイソン見てる場合じゃないですよ! 何とかして、誰か入れる方法を考えないと!」
「頑張って誘っても、誰も入ってくれなかったじゃん……」
机に顎を乗せ、そっぽを向いていじける十日市先輩。……はぁーマジで結婚したい。私、女だけど。
それはそれとして、ここは私なりに考えた最終手段を。つーかもうこれしかない。(つーかこれが限界)
「……こうなったらもう、男子を誘うしかないんじゃないでしょうか!」
そう。最終兵器俺達ならぬ、最終手段男達。
女子がいなければ、次は男子。あまり気は進まないが、ほかに道もない。
しかし、私が提示した最俺案に、十日市先輩の辛辣コメントが付かないはずもなく。
「いっ、嫌だよ、男子とか……」
「そうですよね……」
私の大好きな最俺が否定されたみたいでちょっと悲しいが、それはまた別の話。
十日市先輩にも、ちゃんとした理由があるのだ。
「……先輩、どうしても男子と喋れないんですか?」
「うん……。なんかもう、分かんないけど、ちょっと怖くて……」
そう言う十日市先輩の顔は嫌な出来事でも思い出したかのように真っ青で、いつものことだと分かっていながらも少し心配になる。
「……将来、結婚とかどうするんですか?」
「……それなの。今悩んでること。私もう、一生結婚できないかもしれない……」
「高2の悩みじゃないですよそれ……」
誰よりも綺麗で可愛いのに、そこら辺の男子なんてふっと微笑んだだけでイチコロなのに。
それでも「男子が怖い」という私の先輩には、そうなってしまうほどの理由と過去があるのです。私もまだちゃんとは聞いたことないけど。
「コンコン」
二人悩んでいるそこへ、控えめなノック音。
「どうぞー」
「お邪魔しまーす」
男性の声と、男性の腕。
人当たりの良さそうな、さわやかな雰囲気の男子生徒が一人、ドアを開けて入ってきた。
隣の人の体が、急にぎゅっと縮こまるのが分かる。
「何か御用ですか?」
「えっとその、相談、ていうかさ」
「相談でしたら、どうぞこちらへ!」
私の前に座った男子生徒は、世間で言うところのいわゆる爽やかイケメン。
これなら怖くないんじゃないかなーと思いちらと横を見れば、十日市先輩は白い顔をしてじっと俯いていた。
「さてさて何でしょうか? 恐怖の心霊体験? それとも、妖怪の目撃情報?」
「あー、それがさ、近所でお勧めの肝試しスポットは無いかなって。友達に聞いたんだけど、そういうのはオカルト部が引くほど知ってるってさ」
「ひ、引かないでくださいよ……。えっと、近所ですか。そしたら……」
「おっけ、全部書いた。ありがとう」
「いえいえ、オカルト部ですから!」
私の渾身スマイルにうんと頷いた爽やかイケメンは、恐る恐るといった感じで首を右に動かし、十日市先輩の方を向く。
十日市先輩と言えば、隣で安定のJIZOUタイム。取材とかだったら飛びつくんだけど、それ以外で男子を前にするといっつもこうなんだよねぇ……。
「……それと、十日市さん」
先輩の肩が、びくっと跳ね上がる。
「は、はいっ」
「あの、今度さ、クラスの男女で集まるんだけど、十日市さんももし良かったらどうかな?」
「い、いや、別に私は、あの、だっ大丈夫、です」
出来の悪いロボットのような、途切れ途切れでぎこちない言葉。
「そ、そう。分かった。じゃあ、俺はこれで」
「あ、ありがとうございましたー!」
そそくさと帰っていった男子生徒を見送り、地蔵タイムを解除した十日市先輩を見て言う。
「こういうことですよね……」
「うん、そういうこと……」
「これは、うん、まぁ、ええ、結婚は、ちょっと難しいかもですね……はは……」
「……そうなの……」
……そうか、そうなのか……。この目の前のアルティメット最強グレート最強美少女は、思っていたより重症なようで。
ヤバいな、うん、現実味がリアルガチでヤバい。何がヤバいってマジでヤバい。
……ならば仕方ない、十日市先輩は私が貰ってやるk
「……でもね、もし私が、「怖くない」って思える人と出会えたら、その人とさ、ほら、何ていうか、その……ね?」
私の顔を見ず、窓の外を見てぼそっと一言。
まだ全然日が落ちる時間じゃないのに、先輩の顔には真っ赤な夕日が差していた。
「……」
どんな時も可愛すぎる十日市先輩は、私にはまだちょっと難しい。
でもいつか、このアルティメットウルトラグレートロマンチックスーパーファンタスティックハイパーアメージングブリリアントインプレッシブサイバネティック最強美少女が、「怖くない」と思える相手が見つかるのだろうか。
「……あの、先輩のタイプって、聞いても良いですか?」
「……んー、何かこう、あんまり目立つ感じじゃないけど、言いたいことははっきり言うタイプで、勇気があって頼もしい人、かな」
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