第8話 冒険者ギルドにて2

「それにしてもアイテムの換金までしないといけないなんて、ギルドの受付って大変ですね。」


 ギルドの受付嬢である弥生さんの業務は多岐に渡る。中でも俺と関わり深いのが現在進行形で行われているアイテムの換金だ。


「そう思うなら、お姉さんを沢山労ってくれてもいいんだよ~? 大変だけど、誰かがしないといけないことだからね。 それなら、私たち受付が兼任するのが一番効率的なんだよ。」

「手作業が効率的って……ダンジョンのおかげで日常生活は快適になったと言うのに、それを支える屋台骨がどれも人力なのは皮肉が効いてますね。」

「本当だよ! 手に肉と骨、皮ばかりあっても、血液がないと人は生きていけないって言うのにね~。」

「この場合の血液ってなんです?」

「それは勿論、お金とお休みっ!」

「手に入った暁には俺にも輸血して下さい。」

「あはははは、志麻くんは血液型の不一致キケンをお望みなのかな~~???」

「まさかそんな、言ってみただけですとも。 ははははは。」


 ここで『弥生さん、俺と血液型一緒って前に言ってましたよね?』と話を続けても意味は無いだろう。この場合に発生する危険は言葉通りの意味ではなく、弥生さんによる直接的な制裁。

 人の金と休暇を奪おうとすればそれも当然だろう。俺だってそうする。



「話を戻すけど、ダンジョンのドロップアイテムは品質が一定だから言うほど大変じゃ無いよ?」

「ああ、そういえばそうでしたね。」


 その後に『相場の変動には注意しないといけないけどね~。』と続けて語る弥生さん。


 確かに、ドロップアイテムの品質はドロップした時点でどれも一定だ。ドロップ後に雑に扱ったりしない限り、品質に違いは無い。

 しかし、だからと言ってその言葉だけを真に受けて『ああ、簡単なんだ』と楽観視するのは早計だろう。そもそも品質が一定だろうと、まずはそのアイテムがなんなのかを鑑定しないといけないのだから。



 分かりやすい例で言うなら、ホーンラビットが落とす魔石はユニークモンスターに変異していない限り、どのホーンラビットでも品質に差は無い。しかし、それが別種のモンスターの魔石となると違ってくる。

 要はホーンラビットの魔石と大イノシシの魔石では価値が違うのだ。


 せめて別種ごとに魔石の見た目に違いがあればまだ良かった。ところが実際はゲームのグラフィック流用のように魔石の見た目はどれも変わらない。階層渡りを除けば、第1階層の魔石はどれも素人目では同じに見えるのだ。

 そんなアイテムを短時間で正確に鑑定してしまえるのだから、弥生さんは間違いなく有能なのだろう。



「ふぅ、査定完了っ! 買取はいつも通り、素材だけなんだね~?」

「はい、魔石は自分で使いますので。」


 素材が相場の変動を受けるのに対して、魔石は何時だろうと変動することなく金になる。というのも、魔石は魔道具の電池として使用出来るからだ。


 ダンジョン内では時間経過で自身の魔力が回復、その魔力を使うことで魔道具の起動や召喚獣を呼び出す事が出来るが、ダンジョン外では魔力の回復が極めて遅い。

 つまり、魔道具をダンジョン外で使用するなら魔力の代替となる魔石が必要になってくるのだ。


 それならダンジョン外では魔道具を使わなければいいと思うかもしれないが、そこまでしてでも使う価値が魔道具にはある。

 それに、魔石はクリーンかつ無限に採掘できるエネルギーなのだから魔道具を抜きにしても使わない手はない。



 尚、魔石の買取額は第1階層の魔石1個につき500~1000円。1階層下るごとにこの値段は10倍になっていく。

 命懸けの対価として見るなら決して高い額ではないが、魔道具の台頭により人の手が必要な仕事は年々減ってきている。手に職を持てなかった者や憧れを捨てられなかった者、様々な理由を抱えた者の終着点がダンジョンなのだろう。


 また、魔力代替の他にもう1つ、魔石には特別な使い道があるのだが……これについては後程実践するつもりなので今はいいだろう。



 査定結果を確認すること無く、電子通貨としてギルドカードに入金して貰う。弥生さんの鑑定を信頼しているから、と言うのもあるが長年の経験から幾らになるのかを凡そ感覚で分かっている。

 それに……魔石を含んでいないとはいえ、命懸けで得た金額が2000円にもならないのをいちいち確認するのは悲しい。

 階層渡りとやり合っていたのだから、普段より少ないのは仕方ないことではあるのだが。



「あ、そうそう。 これダンジョンで拾ったんですけど、誰かの落し物・・・・・・みたいです。」

「わざわざ届けてくれるなんて、いつもながら・・・・・・親切だね~。 それじゃあ、責任を持って私が預かります。」

「はい、お願いします。」


 そう言って、小袋に包まれた品を弥生さんへと手渡す。

 ダンジョンではどんな落し物だろうと拾った人の物になるのが基本ではあるけれど、それがもしかしたら遺品の可能性もある場合にはこのように冒険者ギルドで預かってもらうことが可能だ。

 本来であれば荷物預かりサービスなんてやっていないのにダンジョンに関連する事柄であれば融通を効かせてくれるのだから、冒険者ギルドの恩恵は計り知れない。


「用事はこれで全部かな~? もう、暫くは無茶しちゃ駄目だよ?」

「約束は出来ないですが、善処はします。」

「善処されてないから、ずっと言い続けているんだけどな~~。」

「ははは、心配をおかけして……。」


 ジト目の弥生さんに愛想笑いで話を受け流す。

 ここまで親身に心配しつつも、常に応援してくれている弥生さんには頭が上がらない。これ程までに献身的な罠なら、分かっていても引っ掛かりたくなってしまうね。



「あ、そういえば……階層渡りのドロップアイテムってどうなったの?」

「それはまぁ、運が良かったと言いますか。」


 受付を終える間際の問いかけにポンポンと腰から下げた魔石袋を叩くと内側からは景気の良いジャラジャラ音が響く。



「もしかして貰えたのっ!? 良かったね~!」

「ええ、クラス3相当の魔石です。 これも売らないですからね?」

「ちぇ~、それを売ったお金でご飯奢って貰いたかったのになぁ~~?」

「弥生さんと食事できるなら魔石を売らずとも大歓迎ですけどね。 でも、それはまた次の機会にしましょう。」


 『はいはい、楽しみにしとくよ~??』と言いながら見送ってくれる弥生さんを背に、冒険者ギルドの出口へ向かっていく。


 弥生さんとの食事であればなによりも優先したい気持ちはあるが、この後には魔石を使ったイベントが待っている。

 ご褒美はそれが終わった後だ。

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