第27話

(そんな風に無防備にされたら、余計好きになっちゃうじゃない!)

美咲が恭介から視線を落とすと、恭介が

「藤野君?何処か具合でも悪いのか?」

と、声を掛けて来た。


いつだってそうだ。

冷たくされたかと思うと、こうやって優しくされて。

だから余計に諦められなくなる。


美咲はそう思いながら、息を吸って笑顔を作る。

「何がですか?元気ですよ。あ!教授。もしかして……『藤野の憂い顔も可愛いな』とか思っちゃいました?だとしたら、ラッキー」

そう言って恭介の腕に触れようと伸ばした手を、美咲は引っ込めた。

その手には、右手に風太の手が握られ、反対側には座敷童子が手を握っていた。


(遠いな…)


美咲は、そばに居るのに恭介が大学に居た頃より遠くに感じていた。

すると

「酷いよ!風太ちゃん!」

考え事をしていた美咲の耳に、修治の声が届く。

「だってそうだろう!恭介はハクシキ?でウヤマウ?けど、修治はただのバカだからな!」

って、風太に辛辣に言われている。

「こら、風太。そんな風に人を悪く言っちゃダメだろう」

恭介が風太を嗜めていると、修治が恭介の背後から

「そうだぞ!お前らが知らないだけで、大学に戻ったら『きゃ~!修治君、素敵!』って言われてるんだからな!」

と反論した。

すると風太は哀れんだ目をすると

「修治……。人はお前が思ってる程、お前の事をかっこいいなんて思ってないぞ。な!座敷童子」

と呟いた。

すると座敷童子も思い切り頷いて、美咲と恭介は顔を見合わせて爆笑してしまう。

「な!なんだよ!2人まで笑ったりして!」

修治はそう叫びながら、お腹を抱えて笑う美咲を見て小さく微笑んだ。

修治はここに来てから決めていたのだ。

美咲が笑顔になるなら、どんなピエロにもなるんだと。たとえそれが、届かない思いだとしても…。

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