第6話 コウスケ、霊的に成長する…のか?

 エホバの証人として精力的に活動していた頃のお話。


 何気に勉強が好きだった高校生のコウスケは、漠然と大学に行って理系の研究をしたいなぁ、とは思っていました。が、当時のエホバの証人の考えとして、もうすぐハルマゲドンがくる。世界は滅亡する。生き残るために、献身して神に仕えるべきだ、という考えで満ちていました。必然的に、大学生活を送ることは無駄遣い、この世的、サタン的な考えとされ、罪とまではされないものの、あんまりいい目では見られませんでした。


 同級生の信者で高校は通信制の学校を選択し、月に90時間宣教活動に費やす正規開拓者になった友人が居ました。正規開拓者になって、約1年後には開拓奉仕学校という、2週間にわたる特別カリキュラムの講義を受けることができるのですが、そこに彼女が招待されました。その2週間のうちに、彼女が霊的に成長(こういう風に表現していました)し、生き生きと奉仕活動を行うようになりました。


 これを見たコウスケ、開拓奉仕学校に行きたい!という目標を立て、高校卒業し、アルバイトをしながら、半年後から正規開拓者になりました。そして、その1年後には学校に招待されました。専用の書籍をもらい、しっかり予習して講義に臨みます。聖書を参照したり、自分の言葉で注解(意見を述べる)したり、その会場の近くで奉仕活動をして実践したり、と充実した2週間でした。同年代の仲間も複数できて、幸せにでした。


 そして、さらに1年程したあと、奉仕のしもべに任命されました。エホバの証人は地域ごとに、会衆という単位でのがありました。その会衆ごとに集まって、当時は週に3回、集会を行います。会衆をまとめるのに、長老という役職の人がいます。そして長老の補佐役で奉仕の僕が任命されます。全部、ボランティアです。報酬は発生しません。


 エホバの証人の考え方では、長老、奉仕の僕、そして正規開拓者もですが、神からの任命があってなれるもの、とされています。平たく言うと、神から任命されたその地域のお偉いさんの任命もあるので、あなたも神の御意志でその立場で働いてくださいね、ということです。


 開拓奉仕学校に同時期に通ったメンバーの中でもかなり早いうちにコウスケは奉仕の僕に任命されたので、俗世間的な感情を抱くならば、優越感に浸れるところです。ま、そんな考えは推奨されていませんが。


 ただ、奉仕の僕の任命が来た時には悩みました。その頃、僕は、定期的にマスターベーションしていました。これは聖書の教えに反することです。神の任命、聖霊の任命(このようにも表現されていた)があったのであれば、隠れた罪である自涜行為を行い続けている自分がなぜ任命されたのか、という疑問が消えません。

 当時、この任命は巡回監督からお話がありました。巡回監督とは、いわゆるエリアマネージャーみたいなものです。半年に1回、1週間ほどその会衆に滞在し、一緒に宣教活動等を行って、霊的に鼓舞してくださる方です。

 その巡回監督、まだお若い方で、人柄が好きでしたので好印象を持っていたのですが、「任命は謙遜になって受けるべきですよ」、という“励まし”をくださいましたので、謹んでお受けすることになりました。


 が、その頃から、神の任命、聖霊の導き、という教えに関して疑問を持つようになっていきました。それが自分のマスターベーションのせい、とは誰にも言えませんでしたけども......

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