輸送

 夜にバー「ジョンサムレディ」近くの公園に向かう。

 エージェントはまだ来ておらず、ブツを車から取り出して公園で待つ。

 五分遅れでエージェントはやってきた。高級セダンで護衛は二人。襲う気はなさそうだ。


「今回はすまねえな。売る相手を間違えたようだ。運び屋に手を出しても意味がねえんだがな」

「そうよ、本当参っちゃう。で、これがブツよ、タケナカ。袋が破れてないか確認して」


 タケナカさんは護衛に指示を出すとテキパキと確認していった。


「破れてないな。さすがの仕事だ」

「危ない相手に私を派遣するのはわかってるけど、ヤバい相手はやめてくれないかしら」

「今回は本当にすまない。”ヤク”を運んでくれる運び屋は貴重だからな。今日はジョンサムレディで豪遊していってくれ」


 そういうわけでジョンサムレディでの豪遊が始まった。

 僕は酒があまり強くないから、代わりにスマッシュを打つ。気持ちよくなるんだぜ、コイツ。


「はー、キクな」

「麻薬打って依存症にならないなんてずるい体ね。私にもその体寄越しなさいよ。マスター、『プライベートビーチ』追加でもう一杯。あとナポリタン食べたい」

「無理を言わないでよ。希ちゃんも飲み過ぎ注意だよ。食べても身長は伸びないんだし」

「ああん? 身長のこと言ったか? 殺すぞ」


 やべやべ、ついうっかり喋ってしまった。希ちゃんは身長のことを喋るとぶち切れるのだ。一五三センチメートルしかないことをコンプレックスに思っているからね。


「でも強化骨格にしたんでしょ? お金かけて骨格を伸ばせば伸びるよ」


 僕もヤクが入っているからついつい追求してしまう。


「っざけんなー! そんなお金どこにある! 表出ろ! 決闘だ!」

「いやいやごめんごめん、そんなつもりじゃ――」

「問答無用! お前は背がでかいから小さい人の気持ちがわからないんだ、わからないんだよ、ヒックヒック――」


 決闘はどこかにすっ飛び、泣き出した希ちゃん。そして、


「おえっぷ」

「とととと、トイレ行こうねええええ!!」


 僕たちの慌てぶりにタケナカさんは笑いながらこう言うのだった。


「なんとも愉快なコンビだな。今回のヤクに追加する形で輸送先が見つかった。今回も頼むぞ。企業相手だから襲われることはないだろう。中身はスマッシュだから労働者に打ち込んで強制的に長時間働かせでもするんだろう」


 僕たちは聞く余裕もないまま契約したのであった。

 翌日。二日酔いの希ちゃんにクスリを飲ませて運転してもらう。


「はぁ、私に鞭を打って働かせる気なのね。これだからヤクザのエージェントってヤツは」

「飲み過ぎてトイレでぶちまけたのは希ちゃんだよ」

「それはそれ、これはこれ。今回は世界ナンバーワン企業「忠菱」の緊急医療派遣チームへ運ぶわよ。スマッシュなんて何に使うのかしらね。医療チームを酷使するのかしら」


 スマッシュにはモルヒネのような効果があるからそれに使うんじゃない? などとおしゃべりしながら忠菱の医療チーム本部へ。

 デカいなー。垂直離着機VT‐〇四が今日も飛んでいる。


「ここまで大きくても業界では二位なんだから驚きよね。検問通るからアサルトライフルは隠しポケットにしまっておいて」


 この車はそこかしこに隠しポケットがある。運び屋の車だからね。レギュラーサイズのピックアップトラックだから車体も大きいし。


「あー、ここは忠菱の緊急派遣医療チーム本部だ。おまえらみたいな下級民が来るところじゃないぞ」

「こう見えて小規模運送屋なんですよ。ニューロリンクしてもらって良いですか、私たちが通過するためのコードが入っているので。あ、私は右手にしかニューロリンクがないので、お願いします」


 そういって車を降り、検問の駐在員がいる所でニューロリンクする希ちゃん。


「ノゾミ・サンダースとサカキリョウスケか。荷物は緊急使用ナノマシン凝縮パックと。よし、通って良いぞ」


 検問を突破した僕たちは物資倉庫に横付けする。ここに受け渡す担当者がいるはずだ。


「ヨコヤマさんはいらっしゃいますか? 物資をお届けに参りましたー」


 がたいの良いお兄さんが近づいてきて、


「ヨコヤマは僕だ。物を確認しても良いか?」

「はい、どうぞー。確認も受け渡しも手早くお願いしますね」

「わかった。どこに入ってる? 荷台には何もないようだが」


「ここでーす」と希ちゃんがコンピュータをポチポチすると、荷台表面がめくりあがり、その下にある隠し収納場所があらわになる。


「なるほど、質を確認して良いか?」

「良いですけど、私たちは運び屋なんで文句はエージェントにお願いしますね」

「――良い物だな。おい、タダノ。これを運ぶぞ。運び屋はご苦労だったな。積み下ろしたら帰って良いぞ」


 大の大人が二人がかりで運ぶ量のスマッシュを積み下ろし、僕たちはそそくさと現場から離れるのであった。



「それじゃあ、カンパーイ! あの量を運んだからお金も沢山もらったわ。少しは遊んで暮らせるわ」

「乾杯、飲み過ぎないようにね。まあそのお金も希ちゃんのサイバネ改造か車の改造に消えるんでしょ」

「涼介が改造できればなあ、って思うんだけどね」

「僕はこの時代と規格が合わないからなあ」

「永久機関持ちの人間なんて、昔の遺跡でも規格が合わないんじゃない?」

「いやーそんなことはないと思うけどね」


 おしゃべりしながら見事に飲み過ぎた希ちゃんは暴走して暴れ回るのであった。

 ……でも戦前の遺跡かあ。ワンチャンあるかも。

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