第24話 異世界キャンプ


 時刻は夕方6時くらいだろうか。時計が無いので詳しい時間が判らないけど、家に着いたのが四時くらいで転移して二時間ほど経った筈だから、そんなにズレは無いだろう。


 僕はステータスを確認したあと、倒木に座ってコーヒーを飲んでのんびりしていた。(僕って意外と神経図太いのかな?周りは既に薄暗くなってるのに、あんまり気にならないや。でもそろそろ行動開始しないとな)


 そう思った僕は結界内にある小枝と腕の太さほどの木を集め始めた。え?なにするのって?もちろんここで野宿するのだ。今から移動する事は、攻撃の手段が無い僕にとっては非常に危険な行為だからね。そして集めた木を重ね合わせ、中に混ぜた小枝に向かって火を着けた。


「着火」


 僕の手のひらから少し先に小さな火が灯り、小枝に火が着き太い木に移って大きな火になっていく。今僕が使った「着火」は生活魔法の一つだ。この生活魔法は異世界の住人のほとんどが使える魔法。ただし、使える種類に個人差があるらしい。

 そして僕が使える生活魔法は、「着火」「ライト」「飲水」「クリーン」の四つ。着火から順番に使える人が少なくなっていき、最後のクリーンが使えるのは千人に一人の割合になるそうだ。だから門前で冒険者にクリーンを掛ける商売が結構儲かると、僕にインストールされた異世界知識が教えてくれた。


「あー、焚き火ってなんか癒されるなあ」


 僕は燃え盛る火を見て「ぼー」としていた。引きこもりの僕にはのんびりする時間が必要なのだ。それから二本目のコーヒーを飲みながら、これからどうするかを考えた。


 1.まずは晩御飯

 2.寝床の準備

 3.王都を目指す

 4.ダルタンの情報収集

 5.ダルタンを助ける

 6.王都観光


 うん、物凄く大雑把な計画案だね。六番なんかただの遊びでクエストに関係無いし。あと、王都はどっちの方角にあるんだろう?もし行く方角を間違えたら大問題だよね。神様はもっと親切にしてくれてもいいんじゃない?


 そしてコーヒーを半分ほど飲んだ僕はやっと行動を開始する。まずは晩御飯だ。僕の魔法の腕輪の中には調理しなくても食べれるものは結構ある。でも初めての異世界キャンプだから僕は料理に挑戦する事にした。


 僕は一度結界を解いて生活魔法のライトで明かりを確保して、周りにある数少ない石や岩に触り魔法の腕輪に収納していく。その作業は約三十分。必要な数はすぐ集まってたんだけど、途中から石拾いが楽しくなっちゃって。僕の魔法の腕輪の中には大量の石や岩が保管されることになった。


 そこで僕が思い付いたのが、ラノベでよくある大岩爆弾だ。それは収納した大岩を頭上高くから投下する必殺技。僕は試しに魔法の腕輪に収納した中で一番大きな岩を、最大距離の十メートルから投下してみた。


「くらえ!必殺隕石爆弾どっかーんばくだん!」


「ドスン」「……………」


 岩の大きさは漬け物石くらい。それが駄目だったのか、思っていた威力とは違っていた。

(うん、迫力は無かったけど、これでも頭に当たれば首の骨が折れるか脳震盪になるからね。もっと大きな岩を見つけたら、その都度溜めておくことにしよう)


 これで攻撃手段が一つ出来た。


 さて、お遊びはここまでにして晩御飯の準備再開だ。僕は焚き火の側まで戻り「怠惰の防御」で結界を張り直す。念の為、結界内の空気循環を目的に上部に細長く開けた空気穴を追加した。(危なかった…最初の結界のままだったら多分酸欠で死んでたよ。インストールされた知識にこの辺りの説明をしっかりして欲しいものだな。本当に必要なの?)


 それから僕は焚き火の周りに魔法の腕輪から手頃な石を出し積み上げていく。もちろん手積みじゃなくて魔法の腕輪の力でだ。(何気にこれも楽しいな)その高さは20cmほどだ。そして出来上がった石の囲いを見て一言。


「フライパンが乗せれない‥‥‥‥」


 ちょっと囲いが大き過ぎたみたいだ。でも竈みたいにするのは難しいので僕は考えた。「防御力ゼロの薄い結界作ればいんじゃね?」と。そしたら出来た。それもとっても簡単に。


「ぐぬぬぬ、囲いも結界で出来たのか。でも石の囲いは雰囲気最高なのだ!」


 僕は開き直って結界鉄板の上にフライパンを置き、サラダ油を薄く垂らしてソーセージ五本とベーコンブロックを投げ込んだ。

 ん?ソーセージとベーコンは似たようなものだと?いや、全然違うね。ソーセージは「パリッ」っとで、ベーコンは「カリッ」とだ。(僕はこだわりの男なのだ)


 そして焼き上がったら皿に盛り付けて結界のテーブルに置く。お次はソーセージとベーコンの油が染み出たフライパンにバターを少し入れ、そこに食パン一枚を入れて焼き上げるのだ。(全ての旨味を吸い込むのだ!)


 出来上がったカリカリ染み染みトーストをもう一つの皿に乗せ、これも結界のテーブルに置き、あとは炭酸ジュースを添えて出来上がりだ!(うん、とっても美味しそう。野菜は一切無いけどね)


 僕は異世界の真っ暗な森の中で、右手にフォークを握り締め大きな声でごあいさつ。


「それでは、いただきまーす!」


 僕は自己主張の激しいベーコンブロックに標的を定め、右手に持ったフォークを近付けた。と、その時頭の中に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


『私は女神サクーラ。アズール家族の事は任せておいて。頑張れよ。』


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


 えっと、どう反応すればいいのかな?判る。判るよ。桜子さんでしょ?でも女神サクーラってなに?女神になっちゃったの?


 僕は伸ばした手を引っ込めて、フォークから炭酸ジュースに持ち替える。まずは心を落ち着かせようと、その炭酸ジュースを飲み干す勢いで頭を斜め上にして飲み始めた。が、すぐに激しく吹き出した。


「ぶふぁーー!」


 その原因は炭酸ではなく、頭を斜め上にした時に僕の視線に入ったものだった。それはドーム状の結界にへばり付く、獣ミミのある五つの物体。僕と同じ歳くらいの男女が二人、ミーナくらいの男の子が二人、タルクくらいの女の子が一人だ。


 えーと、まだ女神サクーラの事を消化しきれてないのですが‥‥‥


 僕は暫く唖然としていたが、吹き出して残り少ない炭酸ジュースを一口飲んでこう言った。


「こんばんわ」


 異世界で二回目の「こんばんわ」であった。


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