第17話 魔法の腕輪と怠惰の魔法

 クエスト「アズール家族を救え」をクリアしたと謎の女性からのメッセージ。そしてその報酬として魔法の腕輪を貰える事になった僕は突如異世界に転移した。その場所はアズール家族が住む「不浄の森」だった。


 僕は今アズール家の玄関の前に立っている。そしてドキドキしながら大きな声で叫んだ。


「こんばんは!」


 そして聞こえたのはアズール家族の声ではなく、頭の中に響く女性の声だった。


『中里春馬に怠惰の神の加護を与える事に成功。スキル「マナ操作」付与、そして体内にマナの取り込みも完了。転移します』


「ええぇ!今すぐなの?!何処行くの!」


 そして再び世界が暗転した。


 目の前には見慣れたテーブルとその上にあるノートパソコンが見えた。どうみても僕の部屋にしか見えないが、ただ一つだけ見慣れない物がある。それは黒銀色の腕輪。僕はその腕輪を手に取って調べてみた。


 腕輪は幅5cmぼどで光沢が無く黒っぽい銀色をしている。複雑な模様が彫ってあり、「ちょっとカッコ良くない?」と思っている僕が居る。でも僕が嵌めるには輪っかが大き過ぎるなぁと思いながら腕に通してみた。


「バシュッ」


 軽快な音と共に腕輪はピッタリサイズに縮んで僕の手首に収まった。(僕、驚きだぜ!)そして頭の中に流れるアナウンス。


『認証完了。専用装備者は中里春馬。使用方法のインストールを開始します』


(えっと‥‥‥さっきからやりたい放題じゃない?僕はなにも了承してないよね?)


 唖然としている僕の頭の中に何かが流れ込んでくる感じがした。その時間は約三分。(ウルトラマンかカップラーメンか?)そして判った魔法の腕輪の使用方法は以下だ。


 1.春馬専用となるので他者は使用出来ない。

 2.容量は無限大。そして保管したものは時間停止する。

 3.生き物も保管可能。(怖いんだけど‥‥‥)

 4.対象物に触り、腕輪に魔力を流すと腕輪に保管出来る。取り出す場合は、意識すると保管リストが頭の中に現れ、腕輪に魔力を流がして出現先を意識する。出現先は対象物の端を基準として半径十メートル以内可能。


 うん、もの凄いね。これって地球でも使えるんだよ?僕は世界一の泥棒になれるよ?

 それとね。僕は魔法使いになったみたい。三十歳までチェリーだった人がなる魔法使いじゃないよ?僕は高校生だしね。まあ、条件には当てはまってるけどね!

 

 僕が怠惰の神様から貰った加護だけど、色々な恩恵があってその中にスキルと魔法の付与もあったんだ。ただ、ほとんどの物が異世界にあるマナが必要で今は使えない。

 僕の体内には異世界に転移した時に貯めたマナがあるんだけど、それは魔法の腕輪に使うから駄目なんだ。だからスキルと魔法については保留することにした。


(本音はもう色々ありすぎて疲れたんだよ!)


 僕は今日はこれ以上何も考えず寝ることにした。(おやすみなさーい)

 _______________


 翌日の朝十時。久々の朝遅くの目覚めは気持ちいい。(とても気疲れした僕は今日、のんびりする事に決めたのだ。昨日のことは今日は考えない。誰がなんと言おうとも絶対な!)


 僕はドアの前にある朝食を取って来て、ノートパソコンでアニメを見ながら食べた。だけどなにかが物足りない。いつも美味しいご飯だが、今日のご飯は味気なかった。

 その原因は判っている。アズール家族だ。モニター越しだけど一緒に食べるご飯は美味しかった。(ちょっと覗いて見ようかな?)


 僕の意思は豆腐のように柔らかなものだった。今日はのんびりすると決めて一時間も経っていない。今アズール家族を見れば、昨日のことも思い出してしまうと言うのに。

 そして僕はニコニしながらアニメが映っていたモニターを「ゴッズタイムキリング」に切り替えたのであった。


 時刻はもう昼前だ。アズール家族は何をしているのだろうか?家の中を見てみたが誰も居なかった。そして僕は視点を外にすると、三人はは畑の側で輪になり地べたに座って話をしていた。僕は話を聞こうと視点を近づける。


「昨日、夜に「こんばんわ!」って声が聞こえたよね。あれって絶対に神様だよ!でもなんでドアを開けたら居なかったんだろうね?」


 タルクが小首を傾げながら話していた。


「ひょっとして急にお腹が痛くなってトイレに行ったんじゃない?」


 おバカな発言をするミーナ。


「ふふ、どうなんだろうね?」


 言葉を濁すミスカ。(ミーナの言うこと信じてないよね?)


「この背負い袋を持って来てくれただけなのかな。ボクは嬉しかったけど、神様に会いたかったなぁ」


 少しションボリしているタルクをよく見ると、防災グッズの入ったリュックを背負っていた。(リュックが気に入ったのか?だったら今度、もっとオシャレなリュックを送ってやろう。この優しい春馬がな!)


 そして僕はあることが気になった。昨日落としていった物はリュックの他に包丁があった。

 確か地面に刺さっている筈だ。知らずに触って怪我をしたら大変だ。僕はうろ覚えだが視点を転移した場所に移動させたが見当たらない。それで僕はもしやと思いミーナを見てみた。


 そのミーナは立ち上がり二人から距離をあけてから、両手で何かを持って振り回していた。よく見ると右手に包丁を持っていた。そして左手にも包丁が‥‥‥‥‥‥


「お母さん見て!神様から貰った「神様剣」が二つになったのよ!この鋭い刃で全てを切り裂くの!シュババババ!」


 妖しい目をして微笑みながら二刀流をするミーナは怖かった。(タルクもミスカさんもドン引きしてるやん。それと神様剣って‥‥‥)


 僕は誘惑に負けアズール家族の様子を見た事に後悔し、そっとノートパソコンを閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る