第7話 貴族の娘になった傭兵、傭兵になった貴族の娘を説得する
「お断りさせてください」
「えっ!?」
突然の拒否に思わず声を上げてしまったのはアイラの方であった。
「どうしてです? リラ様にとって悪い話ではないと思いますが」
「いえ、その……」
「何か問題でもあるのか?」
言い淀んでいるリラの様子を見て、ギバは単刀直入に質問する。
手を前に組んで、目を逸らして、顔は俯いている。
その姿から心情を読み取ることは難しい。
リラが答えてくれるのを待つしかない、とギバはじっと彼女のことを見た。
「その……」
やがて、ようやく決心がついたのか、リラはぽつりと言葉を紡ぐ。
「お父様、お母様にはこれ以上、心配させたくはありません」
絞り出したその言葉はとても弱々しいものだった。
確かに、この事実が明るみになればリラのご両親はかなりショックを受けるだろう。
ただでさえ娘が誘拐されたのだ。精神的にかなり参っているだろう。
その上で、まだ娘が戻ってくることはできないとわかれば、一体どんな反応をするか。
「ですが、このまま元に戻れなくては更に心配をおかけするのではありませんか?」
しかし、ここで引き下がることは出来ないと、アイラは口を挟んだ。
極力リラを刺激しないように静かな口調で説得を試みていた。
「それは……そうですが。
けれど、入れ替わってしまったのをお伝えするは仕方がないとしても、そのせいでわたしがまだ帰れないと知ったお父様、お母様の気持ちを考えると……」
心苦しい、とでも言うようにリラは胸の前でギュッと拳を握った。
その姿を見てアイラは口を閉じた。
アイラもリラの家族を想う気持ちを理解したのだろう。
その気持ちはギバにだってわかる。
だが……、
「君のご両親のことを想う気持ちもわかる」
とギバは助け舟を出すように極力冷静に口を挟んだ。
「ただ、このまま入れ替わったままでは、君のご両親も困惑するのではないか?
事件解決するまで、ご両親は私の姿をした君を『君』として接し続けなければならない」
「…………」
「その方がご両親にとっては辛いはずだ。気持ちではわかっていても、実際に目の当たりにしてしまうとやはり違和感があるからな。
君だっていつまでもこんな状態ではいたくないはずだ」
「それは……そうですが……」
「そうですね」
アイラもリラに優しい微笑みをして、ギバを援護するように同意した。
「帰ってきた娘がおじさんになってしまっていては」
「私はまだ若い」
「失礼。ですが、このまま解決待たずに、ギバさんの身体のままのリラ様を返すのは、ご両親も嫌でしょう。
それに事件の早期解決にはギバさんが必要です」
「それは……そうなのでしょうけど……」
「先ほどの話で、ギバさんとリラ様は解決するまでは共に行動するということでした。
であるならば、リラ様をブラウン家にお返しすると、自動的にギバさんもブラウン家に行ってしまわれます。
その場合、事件の収束が長引いてしまうでしょう」
アイラの話に理解はしているのだろう。
リラの顔はどんどん曇っていく。
「そうならないためにも、リラ様は無事であることを伝えて、ギバさんには依頼を続行してもらう必要があります。
それが、元の生活に戻るための一番の近道です」
「アイラ君の言う通り、私もその方が良いと思う。
なるべく早く元に戻って、ご両親の元へ送り届けることを約束しよう」
だから頼む、とギバは頭を下げた。
「え? そんなやめてください」
ギバの突然の懇願にリラは慌てて、顔を上げるように促す。
そんなギバの背中にアイラは両手を添えると、
「解決できなければ、ギバさんも困りますから、ね? いつもより本気で取り組むと思います。すぐにご両親の元へ帰れますよ。
ほら、もしできなかったら入れ替わったままの生活になりますからね」
と冗談っぽく微笑んだ。
その瞬間、リラはピタッと動きを止めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます