第2話 異世界〜アルディア〜へ至る道のり
異世界〜アルディア〜へ至る道のり
「出来る限りの望みは叶えるよ」
あのとき若いイケメンの神様はそう言った。
転生したくない。
召還もお断りしたい。
そう言っても通りそうにない感じだった。
きっと神様には神様なりの事情があって、お互いに譲れない状態が出来上がってしまっていたのかもしれない。
そこで一歩引いてしまうのが悪い癖。
人生で我を通したのは家から出たくない。
その一点だけかもしれない。
それに容姿や体力についてなら、最小限の望みはあった。
平凡だけど不細工ではない顔立ち。
人によっては可愛いと言われ、人によっては普通と称されるような。
決してどこにでもいる周囲に埋没してしまう顔ではなく。
言葉では上手く言えないけどと言えば、神様は自己顕示欲がないと苦笑い。
体力についてなら、疲れにくい肉体、もしくは老いも疲れも知らない身体が欲しかった。
何故って?
引き篭もっている間、体力が底辺まで落ちてしまい、満足に歩けない。
少し歩けば大量に汗を掻く。
走るなんて意味がない。
走っても歩いているのと変わらない。
そう言われ続けてきたから、体力に関してだけは、細やかな希望があった。
それを聞いた神様、ラインはまたしても苦笑い。
そして、
「能力についてだけど、やっぱりチート能力使い放題、オールマイティー系がいい?」
と聞いてきた。
正直なんだ、それは? と首を捻った。
出来ないことのない人生のどこが楽しいのか、さっぱりわからない。
だから、「死なない程度に力があれば、後はどうでもいい。敢えて言うなら処世術と創作系の能力が欲しい」そう答えたら、ラインはまた奇妙な顔をした。
「創作系って言わば創造系みたいな?」
神様の世界に娯楽はないのだろうか?
意味が伝わらなさそうだったので、その辺で妥協した。
「後絵心と語学には通じていたい」
この辺になるとラインは、もうなにが言いたいのか理解できないとため息をつき始めた。
そんなに変なことを言っただろうか。
転生した先の世界に娯楽がなかったら、自力で話を作ろうと思っただけなのに。
今更娯楽のない世界は嫌だから。
だからといって神様からのチート能力で、こちらと繋げるスマホとか、そういうのは転生先の世界の文明崩壊に繋がりそうだし。
便利だからとなんでも持ち込むのはしたくなかった。
だから、語学には通じていたいと言ったのだから。
最低限の知識と能力。
あるのはそれだけでいい。
体力に関してだけは、ちょっと高望みしたけど。
そう言えば「君って死にかけている時まで、自己顕示欲を出さないんだね」とラインは感心していた。
「ボクはライン。その名を覚えておいて。またね」
と言ってラインの姿は消えた。
そのまま自分の意識も浮上し始める。
死と同時にこの世界から消えるんだなと、なんとなく理解した。
嫌なことの多い故郷かもしれない。
でも、亡くなった両親には感謝している。
こんな手間ばかりかかる子供の面倒を最後まで見てくれた。
浮かぶ記憶は朧げで、懐かしいという感想は湧いてこない。
でも、確かに自分が産まれ生きてきた故郷。
最後に贈る言葉があるとしたら、
「ありがとう。さよなら」
月並みだけどそれ以外ない気がした。
〜神様たちの密談〜
「お帰り、ライン。初仕事はどうだった?」
創造神にしてラインの祖父が相好を崩して、そう言いながら抱き締めてきた。
毎度のことなのでラインも諦めてしまっている。
「想像以上に梃子摺りましたよ、おじいさま」
あんなに欲のない人間っているんですね、とラインは、先程までの会話を思い返す。
「やれそうかい?」
「やるしかないでしょう。どちらに転ぶかわかりませんが」
この仕事にはラインの運命がかかっている。
言わばふたりは運命共同体だ。
本人はそんなこと思ってもいないのだろうが。
「本人は無自覚なんでしょうが、人外への転生を希望しているようでした。ただそれを叶えてしまうと、また引き篭もってしまいそうな気もして」
「ああいうタイプは俗世に未練がないから、却ってやりにくいからのう」
「無意味に長寿、タフな肉体を与えてしまうと数百年単位で引き篭もってしまいそうです」
「それが苦になるなら死ぬまで引き篭もっていたりせんもんじゃ」
「恋愛に興味はないの?」
「あれば聖人にはなれませんよ」
おばあさまと呼びかけて、ラインは慌てて口を噤む。
「ふむ。そこが突破口になるかもしれんな」
「おじいさま?」
「恋を知らぬ者が恋を知れば、人は自ずと変わるものじゃて」
「恋?」
「恋を知らないのはラインも同じ。ラインにはちょっと難しかったかしら?」
「絶対にやり遂げますから! というわけで暫く留守にします。後はよろしく」
「ライン。元気でね」
「寂しくなるのう」
それぞれの言葉で送り出してくれるふたりに手を振って、ラインは遥か異世界〜アルディア〜へと旅立ったのだった。
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